健康経営
喫煙対策 2018/01/30

健康経営優良法人に受動喫煙対策が必須

執筆: 株式会社 ダリコーポレーション 大内かよ

「健康経営優良法人」の認定要件改訂により、2019年度以降、大規模法人部門および中小規模法人部門において「受動喫煙対策に関する取り組み」が必須項目となった。これにより、企業はますます受動喫煙対策の強化を求められことになるだろう。世界でも受動喫煙対策においては「後進国」として知られる日本。今後、企業は受動喫煙対策をどのように捉えたらよいのだろうか。また、既に推進している企業は何をどこまでやっているのだろうか。

企業はなぜ受動喫煙対策をするべきなのか

喫煙が健康に悪影響を及ぼすことは、周知の事実である。厚労省によると喫煙の影響による死亡者数は国内で12万~13万人と推計。喫煙男性の肺がんの死亡率で見れば、非喫煙者より4.5倍も高い。ほかにも、脳卒中や虚血性心疾患、呼吸器疾患、また早産や低体重児、死産など、リスクを挙げればきりがない。受動喫煙の害も深刻な問題となっており、それが要因での死亡者は、年間1万5千人と推計される。
近年、企業の資産である従業員の健康に価値を置く「健康経営」が注目されているが、健康に害を与えることが明らかな喫煙・受動喫煙対策に企業が取り組むべきなのは、当然のことと言えるだろう。

2017年にスタートした健康経営優良法人でも、「健康経営優良法人 2019」から、「受動喫煙対策に関する取り組み」が認定基準の必須項目になるが、それが叶った背景には、東京五輪を目前に、日本の受動喫煙対策のレベルの低さに対する政府の焦りがうかがえる。

とにかく、日本の受動喫煙対策は圧倒的に遅れている。
先進国では全面禁煙化が90年代から既にスタートしており、アイルランドをはじめ、イギリスや香港、ニュージランド、米国の多くの州で屋内全面禁煙の法律が次々に成立している。遅れをとっていた北京市も、2015年に屋内全面禁煙の条例を施行し、上海市もそれに続いた。現在、屋内全面禁煙を実施している国は50ヵ国以上だ。
2017年、WHOのダグラス・ベッチャー氏は日本の受動喫煙対策を「前世紀並み」と表現。医学雑誌BMJには「日本の喫煙規制レベルは最低ランク」と掲載された。

企業が喫煙・受動喫煙防止対策に取り組むべき理由は、従業員の健康を守ることだけではない。
コラボヘルスの観点から見ても、喫煙が影響を与えるという。2014年度の「特定健康診査の質問票データ」によると、積極的支援該当者のうち男性の4割~6割、女性の1割~4割が喫煙者。喫煙していることでリスクが1つ増え、保健指導レベルが「動機付け支援」※1から「積極的支援」※2にあがることが分かっている。(図1参照)。しかも「積極的支援」は「動機付け支援」と比較して3倍ものコストがかかるため、医療費の増加に繋がるというのだ。

※1、※2特定健康診査の結果から、生活習慣病の発症リスクが高い方に対して、医師や保健師や管理栄養士等が対象者一人ひとりの身体状況に合わせた生活習慣を見直すためのサポートをする。特定保健指導には、リスクの程度に応じて、動機付け支援と積極的支援がある。(よりリスクが高い人が積極的支援となる)

(図2)特定保険指導対象者

参照:厚生労働省 政策レポート 特定健康診査(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2009/09/02.html

また、喫煙やタバコのにおいが消費者の印象や購買意欲に悪影響を与えるという事実も、見逃せない。ティーペック株式会社が実施した「喫煙に関する意識調査」によると(調査期間2017年3月22日~24日)、商品の購入、およびサービスを受ける際、「提供者からタバコのにおいがした場合」、68.4%が「不快だった」と回答(「非常に不快だった」27.9%、「不快だった」40.5%)。
購買意欲の変化については、55.9%が下がった(「やや下がった」31.9%、「大いに下がった」24.0%)と回答している。

さらに、2020年の東京オリンピック・パラリンピック(※)に向けて、屋内全面禁煙の動きが高まる中、厚労省は2020年までに「受動喫煙のない職場の実現」を掲げ、政府はオリンピック・パラリンピック開催地と同等の受動喫煙対策の水準を目指している。国が目指している方向性を考えると、受動喫煙対策に取り組まない企業はスタンダードから外れ、いずれ罰則を受ける日が訪れるかもしれない。

※2020年東京オリンピック・パラリンピックは2021年に延期となっています。

健康経営における受動喫煙対策とは

健康経営優良法人の現行認定基準は「健康宣言の社内外への発信」など5項目を必須、「受動喫煙対策」など15項目は選択項目としているが、2019年度より受動喫煙対策は必須に格上げされ、さらに全面禁煙、または完全分煙が全事業者対象の認定要件となった。

職場における受動喫煙対策は、平成4年以降、労働安全衛生法の改正によって「快適な職場環境の形成」が事業者の努力義務とされ、これを受けて職場における受動喫煙防止対策が進められてきたことから始まった。平成8年には具体的な措置として、喫煙者と非喫煙者の空間分煙が進められ、平成14年には、健康増進法が定められた。職場だけでなく、劇場や飲食店、人が集まる施設などの管理者は受動喫煙対策を講じることを法律で義務化された。

2017年、厚労省は受動喫煙対策の強化案を盛り込んだ健康増進法改正案を提出したが、飲食店における規制をめぐって自民党と対立。結果として見送られることになってしまった。
受動喫煙対策の強化が必須であることは明白であるにもかかわらず、政府がここまで躊躇するのはなぜだろうか。実際、日本の喫煙人口は減少しており、非喫煙者の人数の方が圧倒的に多い。国としては、少数派である非喫煙者の権利を認めようとしているのかもしれないが、国民の健康を守ることを考えれば、もっと賢明な決断ができそうなものだが…。

その点、健康経営優良法人認定制度においては、優良法人を認定するからには、「法律より一歩進んだ基準にするべき」と、健康増進法より厳しい基準を設け、認定基準を改訂することになった。こうした、現状を踏まえた判断が従業員の健康を守る制度につながるのだ。

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執筆: 株式会社 ダリコーポレーション 大内かよ
大学卒業後、医療機器メーカーに独語通訳として入社。その後、産業翻訳業を経て、コピーライターとなる。主に化粧品、健康食品の広告制作およびプロモーションをはじめ、企業のサービスやプロジェクトに関する取材、医療、化学、法律にかかわる専門記事を数多く執筆している。
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参考
・国立国会図書館 受動喫煙の動向
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10212024_po_0925.pdf?contentNo=1

・平成29年版 『厚生労働白書 社会保障と経済成長』 厚生労働省編

・厚生労働省 受動喫煙防止対策徹底の必要性
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000172629.pdf

・厚生労働省 日本では受動喫煙が原因で年間1万5千人が死亡
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000130674.pdf

・厚生労働省 受動喫煙 他人の喫煙の影響 eヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-005.html

・厚生労働省 喫煙の健康影響について
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/kaigi/060810/07.html
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_1.pdf

・経済産業省 優良法人制度認定要件
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenkoukeiei_yuryouhouzin.html

・厚生労働省「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン(H29.7)」P12
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000171483.pdf

・厚生労働省「平成28年 労働安全衛生調査(実態調査)・事業所調査」結果の概要p.10
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h28-46-50_kekka-gaiyo01.pdf

・日本経済新聞 「仏、たばこ1箱1300円へ 欧米諸国で値上げ相次ぐ」
https://www.nikkei.com/article/DGXLASGT26H17_S7A800C1EAF000/

・日本経済新聞 「北京、屋内全面禁煙に 「喫煙天国」で条例施行」
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG01HBA_R00C15A6000000/

※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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提供元:「健康経営優良法人に受動喫煙対策が必須」-禁煙の教科書
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※当記事は、2018年1月時点の弊社運営のWebサイト『禁煙の教科書』で作成されたものを元に、データやイラストのみ一部修正したものです。
※法制度については作成当時のものを参考に作成しており、最新の制度は変更となっている可能性があります。