新型コロナウイルスに対するワクチンは感染拡大を防げるか

感染免疫学がご専門の、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生に「新型コロナウイルスに対するワクチンは感染拡大を防げるか」をテーマに解説いただいた記事をご紹介いたします。(以下、藤田先生執筆)
新型コロナウイルスによる感染者は2020年4月に全国7都道府県に緊急事態宣言が出されてから、2ヶ月ほどで急速に減少しました。ところが、その後7月の終わりから患者数は再び増え始めました。11月21日には過去最高の感染者数2,591人となり、11月27日には31人の死亡者数が発表され、いずれも過去最高の値を示しました。政府は慌てて、GO TOキャンペーンの手直しをし、GO TO TRAVELキャンペーンの札幌市、大阪市を目的地とする旅行の適応を一時停止し、出発の自粛を呼びかけました。さらに、大都市を中心に飲食店などに、夜10時までの営業時間の短縮を再要請しました。
そして、誰もが有効なワクチンの実施を望むようになってきたのです。

厚生労働省は11月18日の衆議院厚生労働委員会では、新型コロナウイルス感染症のワクチンが承認されたら、同意が得られた人にワクチンを接種し、一定期間健康状態を報告してもらう安全性調査を検討していることを明らかにしました。
ワクチンをめぐっては日本が供給を受ける予定のアメリカの2社が暫定的な評価結果ながらも、臨床試験で、90%の有効性が示されたと発表し、期待が高まってきました。
政府は来年前半までに、国民全員分のワクチン確保を目指すとしています。
しかし、これらのワクチンは従来のワクチンとは異なることを私たちは知らなくてはいけません。インフルエンザワクチンなどの今までのワクチンは、ウイルスの病原性を不活化し、それを投与して免疫反応を促すものでした。これは獲得免疫が有効な感染症には確かに効果があります。病原菌に対する抗体を作る方法です。
しかし、今回の新型コロナウイルスは獲得免疫では抑えることが難しく、自然免疫の効果の方が強いと考えられています。
ワクチン開発をしているアメリカ製薬大手ファイザー社はアメリカ規制当局に緊急使用許可を11月20日に申請したと発表しました。
同じく、ワクチン開発をしているアメリカ製薬新興モデルナ社や、イギリス製薬大手アストラゼネカ社も年内の申請を目指すということです。
※編集注:11月30日にモデルナ社もアメリカ規定当局へ申請
ファイザー社とアストラゼネカ社のワクチンの仕組みは根本的に従来のワクチンとは異なっていることを知らなくてはなりません。

ファイザー社が扱うワクチンは、「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」と呼ばれ、ウイルスの遺伝情報(タンパク質の設計図)を投与するものです。新型コロナウイルスの遺伝情報をもつmRNAが体内に入ると、新型コロナウイルスのタンパク質を作り、それに対して免疫ができ、本物のウイルスが侵入した際、素早く排除するという全く新しい仕組みです。このワクチンの特徴は通常のワクチンとは違い、ウイルスの遺伝情報のみで開発でき、培養などする手間が不要で、簡単に素早くワクチンを製造できる利点があります。
しかし、このワクチンには問題点もたくさんあります。mRNAワクチンは非常に分解されやすい物質で、保存温度と期間は-70℃±10℃の場合で最大6ヶ月、2℃~8℃で5日と言われています。輸送や保管の過程で、ワクチンの劣化や有効性が薄れる可能性があるのです。そのため、ファイザー社のmRNAワクチンを使用するにあたっては、低温物流の整備を急ぐ必要があります。もし、効率よく接種できなければワクチン廃棄につながるでしょう。そうさせないために、限られた場所で集団での接種が必要になる可能性が高いなどの問題点もあります。
一方、アストラゼネカ社が扱うのが、「ウイルスベクターワクチン」と呼ばれるもので、別のウイルスに新型コロナウイルスの遺伝子を搭載して投与し、免疫反応を促すものです。素早く設計され、製造できるという利点があります。また、すでに一部の感染症で、使用実績もあります。しかし、複数回の投与が難しいという指摘があり、最大の課題はワクチンが本当に安全かどうかの見極めが必要だということです。
そして、mRNAワクチンと比べて、副作用が起きやすいという指摘もあります。

以上のように、新型コロナウイルスワクチンが承認されるのは時間の問題となってきました。しかし、上記に述べたように新型コロナウイルスワクチンに対して、問題点が多々あり、そう簡単には許可されない可能性もあります。
アメリカ大統領選挙で、当選を確実にした民主党のバイデン次期大統領は、「ワクチンが承認されても、数ヶ月は幅広く利用可能にはならない」と、慎重な姿勢を見せています。
藤田 紘一郎(ふじた こういちろう)

医学博士
東京医科歯科大学名誉教授
1939年旧満州に生まれる。東京医科歯科大学医学部卒業、東京大学医学系大学院修了、テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学院教授を経て、現在に至る。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。1995年、『笑うカイチュウ』で講談社出版文化賞・科学出版賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。主な学会活動、日米協力医学研究会の日本代表、NPO自然免疫健康研究会理事長を歴任。主な近著に、『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)、『脳はバカ、腸は賢い』(知的生きかた文庫三笠書房)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『ヤセたければ腸内「デブ菌」を減らしなさい』(以上ワニブックスplus新書)などがある。
メデイア出演テレビでは『NHK課外授業ようこそ先輩』『NHK人間講座』『NHK Eテレ又吉直樹のヘウレーカ』『日本テレビ世界一受けたい授業』など、ラジオでは『NHK第2ラジオこころをよむ』など多数出演。
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※当記事は2020年11月時点で作成したものです。
※新型コロナウイルス感染症に関する情報は随時変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。
