特集
インタビュー/座談会 2020/10/29

新型コロナウイルス感染者が世界的に急増しているのに 死亡者数が極端に少なくなっている理由

感染免疫学がご専門の、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生に「新型コロナウイルス感染者が世界的に急増しているのに死亡者数が極端に少なくなっている理由」をテーマに解説いただいた記事をご紹介いたします。(以下、藤田先生執筆)


日本における新型コロナウイルスによる感染者が全国の緊急事態宣言が解除されてから、皮肉なことに急増しています。その理由については「新型コロナウイルス感染者が増えているのに、重症者が少ないのはなぜか」で解説致しました。その内容は、現在は症状のない人にも積極的にPCR検査を行った結果、無症状の陽性者が増えてきたことが主な原因だと私は述べました。
ところが、世界的に見ても最近では、感染者数が異常に増えても、死亡者と重症患者の割合が、急激に減少していることがわかってきたのです。

ヨーロッパ各国では、新型コロナウイルス感染が流行し始めた初期から、積極的にPCR検査をしていました。ですから、重症者数や死亡者数が急激に減った理由を日本のようにPCR検査の普及が理由にはならないことがわかります。

現に、2020年3月1日から5月31日までのイタリアでは、感染者数が23万2,997人、死亡者数が3万3,415人、死亡率は14.34%でした。スペインでは、感染者数が23万9,479人、死亡者数が2万7,127人、死亡率は11.33%でした。フランスは感染者数が15万1,753人、死亡者数が2万8,802人、死亡率は実に18.98%でした。(図1)。

図1

ところが、同年6月1日から、9月30日までのイタリアの感染者数は8万1,864人、死亡者数は2,479人、死亡率は3.03%でした。同時期のスペインは感染者数が52万9,709人、死亡者数は4,664人、死亡率は0.88%、フランスでは感染者数が40万0,630人、死亡者数が3,098人、死亡率は0.77%と3月1日から5月31日の死亡率に比べて、一桁から二桁まで下がっています。(表1)

表1

この傾向はドイツ、イギリス、カナダの国においても同様な傾向が見られました。それは新型コロナウイルス感染症の重症例に対する治療効果が大きく関与していることが理由だと思われます。

アメリカ合衆国大統領のドナルド・トランプ氏が新型コロナウイルスに感染したことは ニュースで大きく報じられました。トランプ大統領は「レムデシビル」という抗ウイルス剤を新型コロナウイルスに感染してすぐに投与されました。「レムデシビル」はエボラ出血熱の治療薬として開発されたのですが、新型コロナウイルス感染症への効果が確認され、5月にアメリカ食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可を出したばかりです。

日本では、日本集中治療医学会と日本救急医学会は9月9日、新型コロナウイルス感染症に推奨する治療薬を重症度別に記した診療ガイドライン(指針)を作成し、ホームページで公表しました。
出典:日本集中治療学会「日本版敗血症診療ガイドライン2020(J-SSCG2020)特別編COVID-19薬物療法に関するRapid/Living recommendations 第2版改訂のお知らせ」(2020年10月14日)
https://www.jsicm.org/news/news201014.html

新型コロナウイルス感染症の軽症患者には、新型インフルエンザ治療薬である「アビガン」の投与を弱く推奨しました。中等症、重症患者には肺の病気などに広く使われている、ステロイド薬(デキサメタゾンなど)を強く推奨しました。5月に治療薬として、特別承認された抗ウイルス薬である「レムデシビル」は弱く推奨するとしました。新型コロナウイルス感染症の治療法はまだ確立したとは言われていませんが、私はこれらの薬、特にステロイド薬(デキサメタゾンなど)が、重症者を劇的に救っていると思います。

新型コロナウイルス感染症の重症例では、サイトカインストームと呼ばれる現象が見られ、それが重症化を起こすことが主な要因とされてきました。
サイトカインはウイルスや細菌感染に対して、生体防御を担う生理活性物質です。マクロファージやリンパ球などの炎症細胞や上皮細胞、血管内皮細胞などから、分泌されるタンパク質で、特にTNF-α・IL-6は強い炎症反応を示し、炎症性サイトカインと呼ばれています。

新型コロナウイルス感染症の重症例では、これらの炎症性サイトカインが大量に放出され、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)・播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群(DIC)・急性循環不全(ショック)さらには多臓器不全に陥ることが、わかってきました。

これらの症例には、デキサメタゾンなどのステロイド薬が著効を示すことが明らかにされてきました。難攻不落と思われていた、新型コロナウイルス感染症の重症者がステロイド薬で治療できることがわかってきたのです。

世界保健機関(WHO)も9月初め、新型コロナウイルス感染症重症患者へのステロイド薬の推奨を決めました。最近の日本の大学病院の集計では、新型コロナウイルスに感染した入院患者の40%以上にステロイドが使われています。そして、世界各国の新型コロナウイルス感染症の治療でも同様にステロイド薬がせきを切ったように使われ始めました。
私はこのステロイド薬の使用が世界各国の最近の新型コロナウイルスによる死亡者の減少に深く関係していると思います。

日本では、もともと新型コロナウイルス感染症による死亡者が欧米諸国に比べて非常に少ないことはわかっていました。これは、もともと自然免疫が高いと言われる日本人が、新型コロナウイルス感染を自然免疫によって防いでいるからだと思います。それに加えて、万が一重症になった場合はサイトカインストームをステロイド薬で抑えれば、新型コロナウイルス感染症はそれほど、恐れる必要はない感染症になったと、いうことが言えると思います。

新型コロナウイルスに関しては確かに医学的にはわからないことがたくさんあります。しかし、効果のメカニズムが不明でも、きちんと治療を施せば、十分に克服できる病気になってきたということです。

藤田 紘一郎(ふじた こういちろう)

医学博士
東京医科歯科大学名誉教授
1939年旧満州に生まれる。東京医科歯科大学医学部卒業、東京大学医学系大学院修了、テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学院教授を経て、現在に至る。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。1995年、『笑うカイチュウ』で講談社出版文化賞・科学出版賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。主な学会活動、日米協力医学研究会の日本代表、NPO自然免疫健康研究会理事長を歴任。主な近著に、『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)、『脳はバカ、腸は賢い』(知的生きかた文庫三笠書房)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『ヤセたければ腸内「デブ菌」を減らしなさい』(以上ワニブックスplus新書)などがある。
メデイア出演テレビでは『NHK課外授業ようこそ先輩』『NHK人間講座』『NHK Eテレ又吉直樹のヘウレーカ』『日本テレビ世界一受けたい授業』など、ラジオでは『NHK第2ラジオこころをよむ』など多数出演。

***************
※当記事は2020年10月時点で作成したものです。
※新型コロナウイルス感染症に関する情報は随時変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。