特集
インタビュー/座談会 2020/06/03

「新型コロナウイルス感染の特徴4」〜抗体検査とその意義について〜

新型コロナウイルスに感染すると、ウイルスが体内に入ってきます。これを検査するにはPCR検査と抗原検査があることは前にも述べました。どちらも新型コロナウイルスの成分を検出する方法です。ウイルスが体内に侵入すると、人は2種類の免疫系でウイルスを攻撃します。まず、マクロファージや好中球、NK細胞などの自然免疫系で攻撃します。この際、特に重要な働きをするのはNK細胞です。

NK細胞は食べ物やストレスなどの刺激で簡単に活性が高まったり、低下したりします。NK細胞活性を強力に下げる因子は精神的ストレスです。精神的ストレスを与えると、NK細胞の活性は数分で下がり、ストレスの度合いに応じて、変化することがわかりました。

私が医学部教授をしていた時、学生の卒業試験の前後のNK細胞活性を調べたところ、試験結果が思わしくなく落ち込んだ学生のNK細胞活性は低下したのに反し、大部分の学生は試験のストレスから解放され、NK細胞活性が上昇していました。また、心の持ち方でも、NK細胞の影響が出てくることもわかりました。例えば、笑えばNK細胞活性は上昇し、落ち込むとNK細胞活性は低下するという具合にNK細胞はメンタルの影響も非常に受けやすいのです。新型コロナウイルスに感染した時、たまたまストレスを受けて、NK細胞活性が低下していた場合には、ウイルスの感染を許してしまいます。逆にNK細胞活性が高まっていると、新型コロナウイルスに感染しても、症状が全く出ないか、軽症で済むということです。

ウイルスなどに感染すると、自然免疫の次に獲得免疫が働きます。これはT細胞やB細胞の働きで、病原体に抵抗する抗体という物質を出して、対抗するものです。これは大変強固にできていて、その時の気分や体調などのストレスで、あまり変化することはありません。新型コロナウイルスに感染するとこの2種類の免疫反応によって、人は新型コロナウイルスと戦うのです。

獲得免疫によって、血液中に出てくる物質を抗体と呼びます。加藤勝信厚生労働大臣は5月15日の閣議後記者会見で、東京都と東北地方で行っていた、試験的な新型コロナウイルス感染症の抗体検査の結果を発表しました。新型コロナウイルスの抗体保有者の数は、東京都で、0.6%、東北6県では0.4%だったということです。

アメリカ、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は4月下旬に同州の抗体検査で、約14%、ニューヨーク市内では、約21%の抗体保有者がいることを明らかにしました。

抗体は人体内に侵入したウイルスから体を守るために作られるタンパク質です。その抗体は新型コロナウイルスが人に侵入し、自然免疫系の働きの後に、獲得免疫系が働き、その時に出現するタンパク質です。ですから、抗体は感染直後には検出できないので、診断には使えません。しかし、過去の感染歴を調べて、市中の感染率を把握することができます。この抗体の感染における役割は感染症の種類によってまちまちです。例えば、おたふく風邪は一度感染し、抗体を持つと一生おたふく風邪に罹ることはありません。しかし、風邪のウイルスは一度罹ると、罹りにくくはなりますが、しばらくすると感染するようになります。抗体の働きは一度罹ると、その病気には罹らないものから、何度でも罹るものまで、色々とあるということです。

東京都の小池知事は、新型コロナウイルスへの感染実態を把握するため、抗体検査の実施を打ち出しました。すでにアメリカでは4月半ばにニューヨーク州のクオモ知事が、感染が判明して自宅待機をした医療従事者のうち、検査で抗体が認められた人に、治療の最前線に復帰させる方針を打ち出しています。抗体がある人は、再感染はしないと考えているからです。

しかし、WHOは抗体がどれだけ新型コロナウイルスに有効なのか、不明と言っております。新型コロナウイルスの抗体を持つ人が、再び新型コロナウイルスに感染しないという証拠は現時点では、ないとの見解をWHOは示しています。WHOは新型コロナウイルスに一度感染した人に感染免疫があると認定しないように各国政府に警告しています。

一方では、新型コロナウイルスに対する抗体が確認されれば、再感染のリスクがないと考えている国が多く、個人の移動や職場復帰を認める方針を出している国が多いことが指摘されています。南米のチリでは、新型コロナウイルスの感染から、回復した人に「健康パスポート」の配布も始める方針を表明しました。検査で、抗体が確認された人は直ちに職場に復帰できることが可能になっています。

実は新型コロナウイルス感染症で出現した抗体がどのような力を発揮しているかどうかはまだ、全くわかっていません。なぜなら、この感染症は今年になって、初めて地球上に出現した感染症だからです。抗体が新型コロナウイルスの感染にどのように働くかは、まだわかっていないのです。

多くの感染症学者はこの新型コロナウイルス感染は、何度も繰り返して、第2波、第3波の感染が起こるだろうと述べています。私は、この感染症はSARSとMERSと同じように一過性に地球上に現れて、やがて消えるものと、思っています。新しく出現したウイルスは決まって宿主と共生するように働いているからです。

しかし、今回の新型コロナウイルスの感染が何度も繰り返して感染を広げるのか、今回だけの一過性の感染だけで、終わるのか、誰も予測をすることはできません。それは、神様以外は誰も予測がつかないのです。

◆「新型コロナウイルス感染の特徴1」〜世界に拡大した新型コロナウイルス〜
https://t-pec.jp/ch/article/451

◆「新型コロナウイルス感染の特徴2」〜新型コロナウイルスと免疫力との関係〜
https://t-pec.jp/ch/article/452

◆「新型コロナウイルス感染の特徴3」〜PCR検査と抗原検査について〜
https://t-pec.jp/ch/article/453

藤田 紘一郎(ふじた こういちろう)

医学博士
東京医科歯科大学名誉教授
1939年旧満州に生まれる。東京医科歯科大学医学部卒業、東京大学医学系大学院修了、テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学院教授を経て、現在に至る。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。1995年、『笑うカイチュウ』で講談社出版文化賞・科学出版賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。主な学会活動、日米協力医学研究会の日本代表、NPO自然免疫健康研究会理事長を歴任。主な近著に、『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)、『脳はバカ、腸は賢い』(知的生きかた文庫三笠書房)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『ヤセたければ腸内「デブ菌」を減らしなさい』(以上ワニブックスplus新書)などがある。
メデイア出演テレビでは『NHK課外授業ようこそ先輩』『NHK人間講座』『NHK Eテレ又吉直樹のヘウレーカ』『日本テレビ世界一受けたい授業』など、ラジオでは『NHK第2ラジオこころをよむ』など多数出演。

***************
※当記事は2020年5月時点で作成したものです。
※新型コロナウイルス感染症に関する情報は随時変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。