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インタビュー/座談会 2020/06/03

「新型コロナウイルス感染の特徴1」〜世界に拡大した新型コロナウイルス〜

2019年12月31日、中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎患者27人の存在が公表されました。その後、新型コロナウイルスと認定された正式名称「COVID-19」による感染は、劇的スピードで中国全土へ、そして世界へと広がり始めました。

連日、現在も新型肺炎関連のニュースが報道されています。日本でも4月7日に7都府県、同月16日には全国へ緊急事態宣言が出され、外出自粛などの国民の行動が制限されるようになりました。さらに、新型コロナウイルス感染の勢いを止めるために「人と人との接触機会を8割削減する」という目標を新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(以下、専門家会議と記載)で出され、それに向かって政府も国民も、一丸となって協力する体制が整えられました。ほとんどの会社では、オフィスの仕事を自宅でテレワークをするようになり、デパートなどは一斉に営業を中止し、食料品を扱うスーパーも入店制限を行い、公園も必ずしも自由に使うことができなくなりました。

それらの努力によって、日本での新型コロナウイルス感染は急速に収束に向い、その結果5月14日には39県が緊急事態宣言解除になりました。

この新型コロナウイルス感染は、空気感染はなく飛沫感染や接触感染によるとされています。しかし、今回の新型コロナウイルス感染の特徴は、無症状の感染者からの感染の可能性があるという点です。無症状の感染者は当然チェックをすり抜けてしまいます。その無症状感染者が、感染を広げているとすれば、囲い込みによって感染を止めることはできません。

実はコロナウイルス自体は珍しいものではありません。これまで人に感染するコロナウイルスは6種類知られています。このうち4種は私たちが、秋から春にかけて流行る風邪の原因ウイルスです。風邪の10〜15%がこの4種のコロナウイルスによるものなのです。私たちのほとんどが、コロナウイルスに罹っています。その主症状は、咳や喉の痛みなどの比較的軽いものです。

残りの2種はもともと動物に感染していたコロナウイルスが、変異して人に感染するようになったもので、人に感染すると深刻な呼吸器疾患を引き起こします。2002年に中国で流行した「重症急性呼吸器症候群(SARS)」と、2012年にサウジアラビアで流行した、「中東呼吸器症候群(MERS)」です。

SARSはコウモリから人へとうつり、8,069人が感染、このうち775人が死亡しました。MERSはヒトコブラクダから人へとうつり、これまでに2,494人が感染、858人が死亡しています。

新型コロナウイルスは、これらに続く人に感染することが確認された7つ目のコロナウイルスということになります。

では、新型コロナウイルスはどれくらい危険なウイルスなのでしょうか。
その際の1つの目安となるのが、致死率です。致死率とは、全感染者のうち亡くなられたのが、何人かを示す数字です。エボラ出血の致死率が50%前後、MERSが約34%、SARSが約10%でした。今回の新型コロナウイルスの致死率ですが、中国で新型コロナウイルスへの感染が確認された4万4,500人のデータに基づいて、WHOは2月18日、新型コロナウイルスによる致死率は約2%で、「SARSやMERSほど、致命的ではない」との見解を示しました。感染の中心となっている湖北省の致死率は2.9%と平均よりやや高めですが、湖北省を除いた、中国国内の致死率は0.4%にとどまっているそうです。

日本における致死率は中国より低くなると考えられ、新型コロナウイルスにはそれほど強い病原性はないといって良さそうです。しかし、今回の新型コロナウイルス感染は従来の肺炎とは違った感染が認められ、重篤な症状を示す人が存在するという特徴に注意しなくてはなりません。

新型コロナウイルス感染について、WHOは次のようにまとめております。新型コロナウイルス感染の潜伏期間は1〜12.5日(多くは5〜6日)とされています。発症時に現れる症状としては、熱、咳、喉の痛み、強いだるさ、を訴える人が多いようです。しかし、これは一般的な肺炎の臨床症状と大きく変わりません。風邪と区別がつかないといっても良いでしょう。

発症してから入院し、重症化するまでの典型的な経過についてもわかってきています。発症からしばらくは症状が軽く、発症から1週間くらいで、症状が悪化して入院し、呼吸器などの症状が出始めてさらに悪化していくパターンが見られるとのことです。

国内でも、新型コロナウイルス肺炎による死亡や重症患者が見られます。WHOによれば、感染者の81%の人は軽症です。重い肺炎や、呼吸困難などの重症者が14%。命に関わる重篤な症状が5%です。しかし、このWHOの数字はあくまでも平均的な数字にすぎません。新型コロナウイルス感染による重症者の割合や、死亡率が国によって、非常に違っていることに注意しなければなりません。

現時点5月20日での新型コロナウイルス感染者数は、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学によると、世界で感染が一番多いのは、アメリカ151万9,986人、次いで、ロシア29万9,941人、次いで、ブラジル26万2,545人、次いで、イギリス25万121人、次いで、スペイン23万2037人、次いで、イタリア22万6,699人です。このうち、死亡した人が多い国はアメリカ9万1,179人、次いで、イギリス3万5,421人、次いで、イタリア3万2,169人、次いで、フランス2万8,025人、次いで、スペイン2万7,778人、次いで、ブラジル1万7,509人となっています。

それに対して日本では、5月20日現在、確認された新型コロナウイルス感染者は1万7,107人で、死亡者数は786人となっています。この結果から、日本人の新型コロナウイルス感染者、及び、死亡者の数は世界各国に比べて、圧倒的に少ないことがわかります。

新型コロナウイルスは少しずつ環境によって、変異しやすいことが知られています。しかし、病原性が大きく変わるような変異は世界的にもまだ認められていません。それなのに死亡率をはじめとして、感染率が世界各国で違うのはなぜでしょう。私は感染時の医療体制をはじめとする初期対応と国民の免疫力の差が大きく関係しているのだと思います。


◆「新型コロナウイルス感染の特徴2」〜新型コロナウイルスと免疫力との関係〜
https://t-pec.jp/ch/article/452

◆「新型コロナウイルス感染の特徴3」〜PCR検査と抗原検査について〜
https://t-pec.jp/ch/article/453

◆「新型コロナウイルス感染の特徴4」〜抗体検査とその意義について〜
https://t-pec.jp/ch/article/454

藤田 紘一郎(ふじた こういちろう)

医学博士
東京医科歯科大学名誉教授
1939年旧満州に生まれる。東京医科歯科大学医学部卒業、東京大学医学系大学院修了、テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学院教授を経て、現在に至る。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。1995年、『笑うカイチュウ』で講談社出版文化賞・科学出版賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。主な学会活動、日米協力医学研究会の日本代表、NPO自然免疫健康研究会理事長を歴任。主な近著に、『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)、『脳はバカ、腸は賢い』(知的生きかた文庫三笠書房)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『ヤセたければ腸内「デブ菌」を減らしなさい』(以上ワニブックスplus新書)などがある。
メデイア出演テレビでは『NHK課外授業ようこそ先輩』『NHK人間講座』『NHK Eテレ又吉直樹のヘウレーカ』『日本テレビ世界一受けたい授業』など、ラジオでは『NHK第2ラジオこころをよむ』など多数出演。

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※当記事は2020年5月時点で作成したものです。
※新型コロナウイルス感染症に関する情報は随時変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。