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インタビュー/座談会 2020/06/03

「新型コロナウイルス感染の特徴2」〜新型コロナウイルスと免疫力との関係〜

厚生労働省が新型コロナウイルス感染の疑いがある人に向けて公表している、相談・受診の目安によると、

① 息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
② 高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)等の基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
③ ①②以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

このような場合は、最寄りの保健所の帰国者・接触者相談センターに電話で問い合わせてください、というものでした。

新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安について詳しく知りたい方はこちら

受診を勧められたら、指定の医療機関の帰国者・接触者外来を受診します。専用の外来は混乱を避けるため、一般には公開されていません。受診の際には医療機関に事前に連絡をし、必ずマスクをして外出し、咳エチケットと、手洗いを徹底しようというものです。

咳や発熱があれば、それがみな新型コロナウイルス感染であるはずがありません。多くは通常の風邪やインフルエンザの可能性が高いと考えられます。問題なのは、初期症状だけでは、新型コロナウイルス感染と普通の風邪とはほとんど区別がつかない点です。そこで、高齢者や乳幼児、妊娠中の方、糖尿病、心不全などの基礎疾患や慢性の呼吸器疾患などがある人以外の、日頃から健常だった人は発症から3、4日は自宅で静養に務めるのが良いということです。風邪やインフルエンザであれば、おおよそ3、4日で症状が軽快します。それで軽快するなら、新型コロナウイルス感染の可能性は低いと考えられます。しかし、それ以上発熱や倦怠感などの症状が続く場合は注意したほうが良いと思います。

重症化しやすいと言われる高齢者、持病のある方、免疫力の弱っている方たちは早めに相談、受診を心がけて欲しいというのが、厚生労働省の発表になったわけです。

高齢者は、加齢によって免疫力が低下してきます。例えば、免疫細胞の一種である、NK細胞の活性は一定の年齢(およそ30代)を過ぎると低下していくことがわかっています。高齢者は今回の新型コロナウイルスに限らず、インフルエンザなどに感染するリスクが高くなる可能性があります。糖尿病や心不全、呼吸器疾患などの基礎疾患がある人たちは、それらの病気と戦うためにすでに免疫力を使っています。そのため、新型コロナウイルスに振り分けられる免疫力が弱っていると考えられます。また、妊娠中は免疫力が低下し、一般的にいって、妊娠時に肺炎になると、重症化するリスクが高いため、用心するに越したことはありません。免疫抑制剤や抗がん剤などを使っている人も免疫を薬の力で落としていますから、感染しやすくなっています。

では、どのような場合に重症化しやすいのでしょうか。

2月18日に公表された中国の疾病予防センターのデータによると全体の致死率は約2%で50代以下は、さらに低いのに対して、70代は8%、80代以上では約15%と高くなっています。また、感染者のうちで循環器の病気のある人の致死率は約11%、糖尿病では約7%、高血圧で6%、慢性呼吸器疾患で約6%と報告されています。つまり、高齢者や慢性疾患の持病のある方は重症化しやすいという傾向が出ています。

こうした点を踏まえ、感染しやすくかつ、重症化しやすい高齢者や持病のある方、様々な要因から免疫力が落ちている方は基本的な感染症対策に加えて、人混みの多い場所を極力避けるなど、感染予防に万全を期すことを厚生労働省は注意喚起しているのです。

感染力を示す指標として、1人の感染者が何人にうつすかという数値(「基本再生産数」Ro)があります。WHOが1月に発表した見解では、新型コロナウイルスは1人が1.4~2.5人に感染させるとされています。感染力の強い疾患として知られているのははしかです。はしかのRoは、12~18になります。SARSのRoは2~4でした。こうした数値から、新型コロナウイルスはそれよりも感染率はやや低めで、季節性インフルエンザのRo1.4~4.02と同程度の感染力と見られてきました。しかし、新型コロナウイルスの感染が世界に広範囲に広がってきた今、感染力はやや強くなってきたとWHOの進藤奈邦子アドバイザーは語っています。

今回の新型コロナウイルス感染の特徴は、第1回目の講義でも申しましたとおり、感染しても無症状の人がいるということです。その感染者から、ウイルス感染が広まりつつあることが問題です。新型コロナウイルスに感染しても、全く無症状の人、軽く症状が出る人、重症になる人、死亡してしまう人と分かれるのは、なぜでしょうか。それは、免疫力の差です。免疫力にはいろいろ種類があり、一概には言えませんが免疫力の約70%が腸で作られ、後の30%が心、特に自律神経が関与していると言われています。

免疫には自然免疫系と獲得免疫系の2種類があります。自然免疫系とは生態における常設の防衛部隊であり、獲得免疫系とは緊急時に動員される防衛部隊といっても良いでしょう。自然免疫系の攻撃物質は補体やリゾチウム、インターフェロンなどの可溶性物質です。細胞ではマクロファージや好中球、NK細胞などがあります。この中で、NK細胞が特に重要です。NK細胞は体内を常にパトロールしながら、がん細胞などを見つけ出し、攻撃し破壊します。NK細胞は1人の人が体内に少なくても50億個以上、多い人では1000億個も持っているとされています。このNK細胞は食べ物や、精神的ストレスなどの影響を非常に受けやすいのです。つまり、NK細胞は私たちの生活の中で、強くも弱くもなるということです。

一方、獲得免疫系は抗体やT細胞を使って、細菌やウイルスなどを攻撃するシステムです。このシステムを利用したものに、ワクチンがあります。はしかやおたふく風邪などに、一度罹ると二度と罹らなくなる現象は獲得免疫によって、一度抗体を獲得すると、長い間免疫が記憶された状態になる結果です。獲得免疫を担当するB細胞やT細胞は基本的に強くできており、あまりエイジング(加齢)などの影響を受けません。

新型コロナウイルスの感染はこれらの二重の防衛機構の間をかいくぐって人類に感染を広げたのです。

◆「新型コロナウイルス感染の特徴1」〜世界に拡大した新型コロナウイルス〜
https://t-pec.jp/ch/article/451

◆「新型コロナウイルス感染の特徴3」〜PCR検査と抗原検査について〜
https://t-pec.jp/ch/article/453

◆「新型コロナウイルス感染の特徴4」〜抗体検査とその意義について〜
https://t-pec.jp/ch/article/454

藤田 紘一郎(ふじた こういちろう)

医学博士
東京医科歯科大学名誉教授
1939年旧満州に生まれる。東京医科歯科大学医学部卒業、東京大学医学系大学院修了、テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学院教授を経て、現在に至る。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。1995年、『笑うカイチュウ』で講談社出版文化賞・科学出版賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。主な学会活動、日米協力医学研究会の日本代表、NPO自然免疫健康研究会理事長を歴任。主な近著に、『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)、『脳はバカ、腸は賢い』(知的生きかた文庫三笠書房)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『ヤセたければ腸内「デブ菌」を減らしなさい』(以上ワニブックスplus新書)などがある。
メデイア出演テレビでは『NHK課外授業ようこそ先輩』『NHK人間講座』『NHK Eテレ又吉直樹のヘウレーカ』『日本テレビ世界一受けたい授業』など、ラジオでは『NHK第2ラジオこころをよむ』など多数出演。

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※当記事は2020年5月時点で作成したものです。
※新型コロナウイルス感染症に関する情報は随時変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。