企業に「男女の賃金の差異」の情報公表を義務化 ~女性活躍推進法の改正点~

こんにちは。企業の健康経営を支援する「わくわくT-PEC」事務局です。
今回は、「女性活躍推進法の改正点」についてお伝えします。
<目次>
■男女間の賃金格差は依然として大きい
■結婚がセーフティネットではなくなった
■賃金格差の要因は役職・勤務年数・労働時間
■女性活躍推進法に基づく情報公表
■情報公表から分かること
■情報公表から分からないこと
■情報公表の開始は令和4年10月ごろから
男女間の賃金格差は依然として大きい
政府は2022年7月8日、女性活躍推進法に関する制度改正を行い、常時雇用する労働者数301人以上の企業に対し、「男女の賃金の差異」の情報公表を義務付けました。男女の賃金の差額をそのまま示すのではなく、企業の事業年度ごとに男性の平均年間賃金に対する女性の平均年間賃金の割合(%)を公表することになっています。
日本の男女間の賃金格差は長期的に見ると縮小傾向にありますが、欧米諸国と比べると依然として大きいのが現状です(図1)。情報公表の義務化により、各企業の男女間の賃金の差異が求職者をはじめ社会の目にさらされることで、企業の取り組みを促し、男女間の賃金格差の解消につなげるとともに、「女性の経済的自立」を図る狙いがあります。

結婚がセーフティネットではなくなった
政府はなぜ、「女性の経済的自立」を進めようとしているのでしょうか。その背景には、結婚や家族の在り方の変化、「人生100年時代」といわれる長寿化の進展などがあります。
内閣府の「令和4年版男女共同参画白書」によると、令和3年の婚姻件数は51.4万件となり、戦後最少を更新しました。ピークだった昭和47年(109.9万件)の半分以下の水準です。50歳時点の未婚割合も令和2年時点で男性28.25%、女性17.81%となっており、ここ30年間で大きく上昇しています。一方、離婚件数(18.8万件)は婚姻件数の約3分の1で推移しており、未婚あるいは離別して単身で暮らす人が男女ともに増えています(図2)。
また、「人生100年時代」を迎える中、日本の女性は半数以上(52.6%)が90歳まで生きる時代です(図3)。男性の寿命も延びていますが、一般的には女性の方が長寿であり、配偶者と死別して単身で暮らす女性が増えています。以前であれば子ども夫婦と同居する家族も多く見られましたが、家族の在り方が変わり、3世代同居で暮らす家族は大きく減少しました。結婚が「永久就職」などと称された昭和の時代と異なり、女性の安定した生活を保障するセーフティネットではなくなっています。
ところが、こうした社会の変化にもかかわらず、女性の働き方や賃金、制度等は、昭和の時代から変わっていない点も多く、仕事を持つ単身未婚女性の約5割が所得300万円未満、既婚女性の約6割が所得200万円未満で働いています*1。一方で、少子化による生産年齢人口の減少に伴い、女性の労働力には社会的にも大きな期待が寄せられており、女性が長い人生を経済的困窮に陥ることなく生活できる経済的な自立が、本人のみならず社会全体の喫緊の課題とされています。
*1:内閣府 男女共同参画局「令和4年版男女共同参画白書」(令和4年6月14日公表)


賃金格差の要因は役職・勤務年数・労働時間
厚生労働省の分析によると、男女間の賃金格差の最大の要因は、男女間の役職の違い(管理職比率)にあるようです。企業規模10人以上の管理職(課長担当職以上)に占める女性の割合を見ると、令和3年度は前年度から0.1ポイント下がり、12.3%となっています*2。緩やかな上昇傾向にはあるものの依然として低い状況であり、役職に基づく賃金の差異がそのまま男女間の賃金格差につながっています。
また、勤続年数の違いや労働時間の違いも男女間の賃金格差の要因となっています。結婚・妊娠・出産・育児等を理由に仕事を辞める女性は少なくなく、年齢階層別の就業率が「M字カーブ」を描く状況は25~29歳、30~34歳の就業率の上昇で改善しつつありますが、それでも結婚・妊娠・出産・育児等を理由に仕事を辞めたり、フルタイムから短時間労働に切り替えたりする女性は一定数存在しており、男女間の勤続年数や労働時間に違いが生じ、ひいては男女間の賃金格差につながっているようです。
このほか、非正規雇用で働く既婚女性のうち、所得50~99万円の者の57.5%、所得100~149万円の者の54.5%が収入を一定額以下に抑える就業調整をしています*3。社会保険や税制等の制度が女性の就業に影響を及ぼし、賃金を下げる要因の一つとなっています。
*2:厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」(令和4年7月29日公表)
*3:内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」資料(令和4年2月7日公表)
女性活躍推進法に基づく情報公表
こうした状況を踏まえて平成28年4月に全面施行された女性活躍推進法は、正式名称を「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」といい、女性の職業生活における活躍を推進し、経済的な自立を促すことで、豊かで活力ある社会の実現を図るというのが法の趣旨です。
企業に対し、自社の女性の活躍に関する状況把握や課題分析、その課題解決にふさわしい数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画の策定・届け出・周知と、求職者等の選択に資する情報公表を求めています。「男女の賃金の差異」の情報公表も前述の通り、この女性活躍推進法に基づく枠組みで義務化されています。
同法に基づく情報公表は、常時雇用する労働者数301人以上の企業に対し、図4(女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供)(1)~(8)の8項目から任意の1項目以上、図5(職業生活と家庭生活との両立)の7項目から任意の1項目以上、そして新たな項目として追加された「男女の賃金の差異」の公表を求めるものです。
なお、令和4年4月から同101人以上300人以下の企業に対しても情報公表が義務付けられていますが、「男女の賃金の差異」を含む図4、図5の全16項目から任意の1項目以上を選択して公表することとなっており、必ずしも「男女の賃金の差異」が公表されるわけではありません。同100人以下の企業は努力義務とされています。



情報公表から分かること
公表される企業の「男女の賃金の差異」は、1事業年度における男性の平均年間賃金に対する女性の平均年間賃金の割合(%)の数値です。したがって、数値が100%であれば男女間に賃金の差異がないことを示しており、例えば70.0%であれば女性の賃金の方が男性の賃金より30.0%低く、逆に100%を上回れば女性の賃金の方が男性の賃金より高いことを示しています。
また、「男女の賃金の差異」の割合は、(1)全従業員、(2)正規雇用の従業員(正社員)、(3)非正規雇用の従業員(パート・有期社員)の3区分ごとに分けて算出・公表することが必須となっており、雇用管理区分別に賃金の差異が読み取れるようになっています。
加えて、情報を見る側の求職者等が、他の企業の情報と比較できるように、雇用管理区分や賃金などの定義や対象期間は、明確に示すこととされています。例えば賃金には、基本給のほか、どのような手当て(残業に対する割増賃金、賞与など)が含まれているのか、賃金から除外した手当てがある場合*5には、その具体的な手当ての名称などを表示することが企業側に求められています(図6)。
*5:賃金は名称を問わず、労働の対償として労働者に支払われるすべてのものを指しますが、年度を超える労務の対価という性格を有する「退職手当」や、経費の実費弁償的な性格を有する「通勤手当等」は、個々の企業の判断により、それぞれ「賃金」から除外する取り扱いとしてもよいとされています。

情報公表から分からないこと
公表される情報は、あくまで男女の賃金の年間平均値を用いて算出された数値であり、1つの指標にすぎません。数値の大小のみをもって企業の女性の活躍推進に関する取り組み状況を的確に判断することはなかなか難しいと思われます。
なぜなら、女性が活躍しやすい職場環境を整えた結果、多くの女性従業員を新卒で採用できた企業では、相対的に賃金の低い新卒の女性従業員が増えたことで一時的に男女間の賃金の差異が拡大するなど、取り組みに相反した結果も考えられるからです。逆に、女性従業員の離職率が高い企業では、例えば相対的に賃金の低い新卒の女性従業員が離職することで、数値上は男女の賃金の差異が縮小することも考えられます。
また、育児期間中に短時間勤務を選択している女性が多い企業であれば、その分女性の賃金が下がり、男女間の賃金の差異は大きくなります。育児期間中も女性が継続して働きやすい職場だと見るか、逆に男性の育児への関わりが少ない職場だと見るかは判断の分かれるところかもしれませんが、賃金の差異の数値だけでは分かりません。
そこで、制度を所管する厚生労働省は、こうした「男女の賃金の差異」の数値だけでは伝えきれない企業の事情についても、積極的に公表するよう企業に推奨しています。情報を見る側としても、そうした数値の背景にある事情が公表されていれば、併せて確認するとともに、このほかの公表情報(管理職比率や平均継続勤務年数など)も踏まえ、企業の状況を総合的に判断するよう留意が必要です。
情報公表の開始は令和4年10月ごろから
女性活躍推進法に基づく「男女の賃金の差異」の情報公表は、令和4年7月8日以後に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表するとされています。あまり数は多くありませんが、7月末に事業年度を終了する企業では、おおむね10月末までに最初の情報公表を行うことになっています。
公表はこれまでの仕組みと同じように、自社ホームページや厚生労働省が運営する女性の活躍推進企業データベース*6において実施されます。この機会に各企業の公表内容を確認してみてはいかがでしょうか。
*6:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」
https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/
原稿・社会保険研究所Copyright
***************
参考:
・内閣府 男女共同参画局「令和4年版男女共同参画白書」(令和4年6月14日公表)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/pdf/r04_print.pdf
・厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」(令和4年7月29日公表)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/02.pdf
・内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」資料(令和4年2月7日公表)
https://www.gender.go.jp/kaigi/kento/Marriage-Family/8th/pdf/1.pdf
・厚生労働省 男女共同参画局「女性の活躍推進企業データベース」
https://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/
***************
※当記事は2022年9月に作成されたものです
※「健康経営(R)」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。