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インタビュー/座談会 2020/08/06

新型コロナウイルスの第2波はあるのか~1.自然免疫が新型コロナウイルスの感染を抑える~

感染免疫学がご専門の、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生に「新型コロナウイルスの第2波はあるのか」をテーマに解説いただいた記事をご紹介いたします。(以下、藤田先生執筆)


7月23日の東京都の新型コロナウイルスの感染者数は366人で、過去最高の値を示しました。5月25日に全都道府県で、緊急事態宣言が解除された時は東京都の感染者数は8人、全都道府県の感染者を合わせた人数はたった20人でした。それが、東京都だけでも、過去最高の366人になったのです。

当然、緊急事態宣言が再度出される数だと思われますが、政府は一向にこの宣言を出す気配が見られません。それどころか、GO TO TRAVELキャンペーンを東京抜きで、7月22日より開始したのです。

感染者数が爆発的に増えているのに、なぜ緊急事態宣言が再び、発動されないのでしょうか。その理由をまず考えてみましょう。

第一に感染者数では、新型コロナウイルス感染の実体を正確に把握できない点です。緊急事態宣言が解除されるまでは発熱など新型コロナウイルス感染の疑いのある人のみ、PCR検査を施行していました。ところが、現在は新型コロナウイルス感染の可能性のある人を積極的にPCR検査を施行しています。その結果当然、陽性者数は増えてきます。ですから、統計をとるならば、検査数と、感染者数との両方の値を併記しなければならないわけです。

第二は、日本人の新型コロナウイルスによる死亡者は世界的に見ると、非常に少ない点です。憲法上の問題もあって、欧米のような激しい都市封鎖(ロックダウン)を行うことができず、国民の自発的協力に基づいた活動自粛策しか行うことができないのにも関わらず、日本人の新型コロナウイルス感染による死亡率は欧米などより、二桁も少ない状況です。日本を含む東アジア諸国、中東の一部の国々などは死亡率が一桁で、実に100倍の差があります。なぜ、国によって新型コロナウイルス感染による死亡率がこのように違うのでしょうか。私はこれまで、日本人の未知の病原体に対する恐怖心が原因だと思っていましたが、そうではないことが明らかにされてきました。

ドイツ国内でも、新型コロナウイルス感染による死亡率に差があることがわかりました。1970年代まで、BCGを接種した旧西ドイツと、1990年代までBCGを接種した旧東ドイツとでは、新型コロナウイルスによる死亡率が明らかに違うのです。旧西ドイツの方が、圧倒的に死亡率が高く、旧東ドイツは死亡率が低いことがわかりました。どうやらBCG接種が新型コロナウイルスによる死亡率に差を出していることがわかってきたのです。

BCGは日本株・ロシア株・デンマーク株があります。生菌数の多い日本株、及びロシア株をまとめて、前期株と言います。それに対し、デンマーク株を後期株と呼んでいます。日本・韓国・台湾・タイ・マレーシア・イラクなど、前期株を使ってBCG接種をしている国は、新型コロナウイルス感染者の死亡率は人口100万人あたり、多くの場合で一桁です。後期株を使用しているBCG接種をしているイラン・ポーランドなどは新型コロナウイルス感染者の死亡率は人口100万人あたり、二桁~三桁です。BCGを行ったことがない国、米国・イタリア・オランダ・ベルギーなどの国の新型コロナウイルス感染者の死亡率は人口100万人あたり、いずれも100倍の三桁です。BCGをかつて接種していて、現在はやめている国、英国・フランスなどの国の新型コロナウイルス感染者の死亡率は、接種していない国と同様に高く100万人あたり、三桁でいずれの国も後期株を使用していました。

最近までBCG接種を行っていたポルトガルと隣国のスペインとを比較すると、新型コロナウイルス感染者の死亡率が10倍の違いが出ていて、ポルトガルの死亡率が圧倒的に抑えられていたことがわかっています。

なぜBCGを接種した国で、新型コロナウイルス感染者の死亡率が抑えられたのでしょうか。

BCGは結核菌のみならず、色々な細菌・真菌・ウイルスに対して防御効果を示すことが以前から、わかっていました。これを「オフターゲット効果」と言います。BCG接種を受けた集団は全体的に死亡率が低く、呼吸器系ウイルスの感染率が低いなどの効果がわかっていました。オフターゲット効果はマクロファージなどの単球、及び骨髄幹細胞にエピジェネティックな変化(後天的な環境因子が加わって変化したもの)として記憶されることが明らかになっています。つまり、自然免疫の強化効果が、ある程度の期間持続されることが説明できるのです。これを「訓練免疫」と呼んでいます。以上のことを考えれば、BCG接種が新型コロナウイルス感染において、強化された自然免疫を通じて、その後の重症化を抑制する可能性が出てきたわけです。

また、新型コロナウイルスは季節性インフルエンザに比べて、死亡率が少ないこともわかってきました。つまり、BCG接種を国策として行っている国では、新型コロナウイルスは季節性インフルエンザに比べても、死亡率は低いということです。

私は、新型コロナウイルスの第2波を迎えるにあたって、対策の枠組みを見直す必要があると思います。国民に提供する情報を、信頼性に乏しい感染者数から、死亡者数に変更し、新型コロナウイルス感染への恐怖を煽るだけではなく、正しいリスク情報を提供する必要があると思います。

藤田 紘一郎(ふじた こういちろう)

医学博士
東京医科歯科大学名誉教授
1939年旧満州に生まれる。東京医科歯科大学医学部卒業、東京大学医学系大学院修了、テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学院教授を経て、現在に至る。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。1995年、『笑うカイチュウ』で講談社出版文化賞・科学出版賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。主な学会活動、日米協力医学研究会の日本代表、NPO自然免疫健康研究会理事長を歴任。主な近著に、『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)、『脳はバカ、腸は賢い』(知的生きかた文庫三笠書房)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『ヤセたければ腸内「デブ菌」を減らしなさい』(以上ワニブックスplus新書)などがある。
メデイア出演テレビでは『NHK課外授業ようこそ先輩』『NHK人間講座』『NHK Eテレ又吉直樹のヘウレーカ』『日本テレビ世界一受けたい授業』など、ラジオでは『NHK第2ラジオこころをよむ』など多数出演。

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※当記事は2020年7月時点で作成したものです。
※新型コロナウイルス感染症に関する情報は随時変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。