特集
インタビュー/座談会 2020/08/19

新型コロナウイルスの第2波はあるのか~2.ワクチンと治療薬について~

前回の『1.自然免疫が新型コロナウイルスの感染を抑える』に引き続き、東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生に「新型コロナウイルスの第2波はあるのか」をテーマに解説いただいた記事をご紹介いたします。(以下、藤田先生執筆)


アメリカのジョンズ・ホプキンス大学によると、新型コロナウイルスの世界の新たな感染者が7月15日集計分で23万人を越え、過去最多を更新しました。
7月27日時点の全世界の累計感染者数は1621万4,596人で、死者は64万8,354人となり、新型コロナウイルスの感染拡大は世界的に続いております。

アメリカを中心として世界各国はこの流行拡大をなんとか抑えようとし、ワクチン開発や、治療薬開発を急いでいます。アメリカ製薬大手ファイザー社は7月13日、ドイツの製薬ベンチャーと共同開発する新型コロナウイルスのワクチン2種がアメリカ食品医薬品局(FDA)の優先審査に指定されたと発表しました。7月中に始める予定の大規模な臨床試験の結果が良かった場合、実用化に向けた手続きを迅速化できるということです。

ファイザー社は、最も治験が進んでいたワクチン候補の一つについて、新型コロナウイルスから回復した患者を越える水準の抗体が確認できたとする初期の治療結果を公表しました。

イギリスのオックスフォード大学はイギリス製薬大手のアストラゼネカ社とともに開発を進めている新型コロナウイルスのワクチンについて、人の臨床試験の結果、免疫の役割を担う抗体の量が接種後に上昇することを確認しました。

中国政府は中国国内で、開発を進めている新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験について、最終段階の第三段階に進んだことを明らかにしました。

日本では、大阪大学とバイオ企業アンジェス社が共同で、大阪市立大学医学部付属病院において、健康成人志願者を対象に、開発中のワクチンを投与する治験を7月初めから開始しました。その他、塩野義製薬も国立感染症研究所と年内の治験開始の準備をしています。

WHO(世界保健機関)によりますと、新型コロナウイルスのワクチンは現在世界で、百種類以上研究が進められていて、このうち少なくても十種類については実際に人に接種して、安全性や結果を確かめる臨床試験が始まっているということです。

このように、世界各国で新型コロナウイルスのワクチン開発が緊急に行われていますが、新型コロナウイルスのワクチン開発は色々と難しいことが想像されます。

まず第1に、新型コロナウイスは感染しても、しばらくすると血液中の抗体が減り始めたという報告があるからです。
第2に、新型コロナウイルスの感染防御は、獲得免疫ではなく、自然免疫が大きく関与しているからです。

従来のワクチンは主として、獲得免疫をあげるという方法ですが、新型コロナウイルスの感染防御には、獲得免疫の抗体では、防御できないことがわかってきたからです。したがって、私は従来のワクチン開発法では、有効な新型コロナウイルス感染防御ができないと、考えております。

北里大学の片山和彦教授らの研究グループはこうした課題を解決しようと鼻から吸い込むことで、ウイルスが最初に感染する鼻の粘膜に抗体を作る新たなタイプのワクチンの開発を進めています。このワクチンは免疫反応を引き起こすタンパク質を「分子ニードル」と呼ばれる細胞の中で溶ける、極めて微小な分子を使って注入するもので、鼻から吸い込むことで、鼻の粘膜に局所的に抗体を作り出して、感染を防ぐというものです。

大阪大学とバイオ企業アンジェス社は共同でDNAワクチンと呼ばれるタイプのワクチンを開発しています。このワクチンは、ウイルスそのものは使わずにウイルスの表面にあって、細胞に感染する際の足掛かりとなる「スパイクタンパク質」の遺伝子を使ったものです。いずれにしろ、これらのワクチンの成果はまだ、明らかにされていません。

このように、新型コロナウイルスのワクチン開発は世界中で、活発に行われていますが、はっきりした成果はまだどのワクチンにも認められているわけではありません。

一方、新型コロナウイルスの治療薬として、「レムデシビル」が、本年5月新型コロナウイルスの治療薬として、日本で承認されました。「レムデシビル」はアメリカの製薬企業「ギリアド・サイエンシズ」が開発した薬で、新型コロナウイルスの治療に効果が期待されています。

イギリスオックスフォード大学の研究チームは、炎症を抑えるステロイドの一つ「デキサメタゾン」という薬を新型コロナウイルス患者に投与した結果、この薬を投与した症状の重い患者で、死亡率が下がったという報告をしています。

具体的には気管挿管や気管切開を伴う人工呼吸器をつけた患者で、およそ35%、マスクをつけて酸素を供給した患者で、およそ20%の患者が、それぞれ薬を投与しなかった患者に比べて、死亡率が下がったとの報告があります。

WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が、新型コロナウイルス重症患者の死亡率を下げる効果を示した最初の研究だとして、評価するコメントを出しました。

その他、日本の製薬会社が新型インフルエンザの治療薬として開発した「アビガン」が軽症の新型コロナウイルス感染者の治療薬として、期待されています。

政府は手続きを大幅に短縮して、当初5月中に承認を目指すとしていましたが、治験は予定より遅れて7月以降に続けられる見通しになりました。
「アビガン」については、藤田医科大学の臨床研究で、有効性はないと報告されたこともあり、治療薬として承認されるには、まだ時間がかかりそうです。

◆新型コロナウイルスの第2波はあるのか~1.自然免疫が新型コロナウイルスの感染を抑える~
https://t-pec.jp/ch/article/471

藤田 紘一郎(ふじた こういちろう)

医学博士
東京医科歯科大学名誉教授
1939年旧満州に生まれる。東京医科歯科大学医学部卒業、東京大学医学系大学院修了、テキサス大学留学後、金沢医科大学教授、長崎大学医学部教授、東京医科歯科大学院教授を経て、現在に至る。専門は、寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学。1983年寄生虫体内のアレルゲン発見で、小泉賞を受賞。1995年、『笑うカイチュウ』で講談社出版文化賞・科学出版賞を受賞。2000年、ヒトATLウイルス伝染経路などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。主な学会活動、日米協力医学研究会の日本代表、NPO自然免疫健康研究会理事長を歴任。主な近著に、『50歳からは炭水化物をやめなさい』(大和書房)、『脳はバカ、腸は賢い』(知的生きかた文庫三笠書房)、『腸をダメにする習慣、鍛える習慣』『ヤセたければ腸内「デブ菌」を減らしなさい』(以上ワニブックスplus新書)などがある。
メデイア出演テレビでは『NHK課外授業ようこそ先輩』『NHK人間講座』『NHK Eテレ又吉直樹のヘウレーカ』『日本テレビ世界一受けたい授業』など、ラジオでは『NHK第2ラジオこころをよむ』など多数出演。

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※当記事は2020年7月時点で作成したものです。
※新型コロナウイルス感染症に関する情報は随時変更になる可能性がありますので、予めご了承ください。