乳がん治療に欠かせない「乳房再建」、どのくらい知っていますか?【レポート】乳房再建の最新情報を得られる「BC Venus Forum」が東京・銀座にて開催
国立がん研究センターの最新がん統計によると、今や生涯のうちに9人に1人の女性が乳がんになる時代。「乳がん治療のことは、よく知っている」という人も多いかと思います。しかし「乳房再建」についてはいかがでしょう。
乳房再建は、乳がん手術によって損なわれた乳房を取り戻すために行う形成外科分野の手術です。乳房が損なわれた状態をつらく感じる患者さんは少なくありません。そうした中、乳房再建手術を受けたことで、前向きな気持ちで日々を過ごしている人も数多くいます。
乳房再建に初めて保険適用が認められたのは2006年。乳房全摘手術後の自家組織による乳房再建に対してでした。そして2013年7月に人工物(乳房インプラント)による乳房再建の保険適用が認められたことで、患者さんにとって乳房再建という選択肢がますます身近なものになってきています。
その一方で乳房再建方法の高度化・多様化が進んでいるため、一般の人にとっては、最新情報を知り、理解することが難しくなっているのもまた事実です。そうした中、患者さんに向けて乳房再建手術の正しい情報を発信する活動を行っている団体がいくつかあります。今回はそうした団体の一つ、NPO法人E-BeC (エンパワリング ブレストキャンサー)の開催した乳房再建セミナーを紹介します。
NPO法人E-BeCが開催する乳房再建セミナー
爽やかな秋晴れに恵まれた10月29日、足を運んだのは「BC Venus Forum Vol.1 in東京・銀座 今できる乳房再建のすべて~インプラント・自家組織・脂肪注入~ 専門医と再建経験者に聞く乳房再建のリアル」です。
主催するNPO法人E-BeC (エンパワリング ブレストキャンサー)は、2013年に設立。乳房再建手術への正しい理解の普及と乳がん患者さんのQOL向上を目指して活動を続けています。東京や地方で行われていた「乳房再建セミナー」が、名称も新たに4年ぶりに開催され、乳房再建の最新情報を求める205名の参加者が集まりました。
BC Venus Marche(企業ブース)は大変な賑わいでした
会場に入ってすぐの場所には、乳房再建後に着用する下着の展示販売や、術後の傷跡をケアする商品の紹介など、乳がん患者さんに役立つブースが並ぶ「BC Venus Marche」。ここにティーペックも参加し、サービスの紹介をしました。
傷跡ケアテープの紹介をするニチバン株式会社の企業ブース
ティーペックも出展し、来場者のみなさんに、セカンドオピニオン手配をはじめとするサービスの紹介をしました
また現在、保険適用となっているエキスパンダーおよび乳房インプラント、そして脂肪注入による乳房再建に使われる体外式吸引カップの展示もあり、多くの参加者が関心を寄せていました。
人工物再建で使われるエキスパンダーおよび乳房インプラント
株式会社ベアーメディックによる脂肪注入による乳房再建に使われる体外式吸引カップの展示
3つの再建方法を代表する、3名の専門医が講演
このイベントは3部構成になっていて、第1部は乳房再建の専門医による講演です。
開会の挨拶をする、E-BeC理事長の真水美佳氏
乳房再建は大きく分けて、以下の3つの方法があります。
1.シリコン製のインプラントを入れる方法(人工物再建)
2.自分のからだの組織を使う方法(自家組織再建)
3.自分のからだから吸引した脂肪を注入して再建する方法
(※インプラントや自家組織だけではきれいに再建できない場合などには、脂肪注入を併用することもあります)
第1部では、それぞれの再建方法で施術を行っている専門医が登壇し、最新情報を紹介してくださいました。人工物再建については、医療法人社団ブレストサージャリークリニック院長の岩平佳子先生、自家組織再建については、がん・感染症センター都立駒込病院 形成再建外科部長の寺尾保信先生、脂肪注入による再建については、富山大学形成再建外科・美容外科教授 佐武利彦先生。この日もご多忙な中、患者さんへの情報発信に協力してくださいました。
人工物再建について講演する、医療法人社団ブレストサージャリークリニック院長 岩平佳子先生
自家組織再建について講演する、がん・感染症センター都立駒込病院 形成再建外科部長 寺尾保信先生
脂肪注入による再建について講演する、富山大学形成再建外科・美容外科教授 佐武利彦先生
それぞれの再建方法における利点や課題、最新の術式解説を含めた内容は、大変中身の濃いものでした。そして、先生たちの講演を聞きながら、一所懸命にメモをとっている参加者の皆さんの姿が大変印象的でした。
再建した胸を見て触らせてもらえる「体感会」
第2部は乳房再建手術の経験者のお話を聞きながら、再建した胸を見て触らせてもらえる「体感会」と、インプラント挿入後の胸の形を3Dシミュレーションする体験と、人工乳房の装着体験という2つの「体験会」が行われました。
乳房再建手術を受けた胸を実際に見て触らせてもらえる機会は、本当に貴重です。
私も2017年に開催された「E-BeC特別セミナー」で「体感会」に参加させてもらいました。自分なりに乳房再建については勉強していましたが、「見て・触る」ことにより得られるものの大きさに圧倒されました。また胸を見せてくれたモデルさんたちの前向きなエネルギーに、心が温かくなったことを今もはっきりと覚えています。
「体感会」の参加者からは
●「人工物再建の胸は冷たいと聞いていたけれど、実際に触らせていただいてそれほど冷たくないことがわかりました」
●「人工物再建にしようと思っていたけれど、自家組織や脂肪注入で再建した胸がとてもキレイで。もう少しいろいろな選択肢を検討してみようと思います」
といった声を聞くことができました。
「体験会」もまた大変な人気で、開場とともに予約が埋まっていました。
人工乳房とはシリコンなどで作られた胸で、まるで本物のような精巧さです。乳房再建手術をせずに人工乳房で過ごす人もいます。また乳輪・乳頭部分だけの人工ニップルもあり「乳房再建で胸の膨らみを作っても、乳輪・乳頭は再建せずに人工ニップルで」という人もいます。
装着体験をした人からは
「思っていた以上に自然だし、付け心地も軽い」という感想を聞きました。
株式会社マエダモールドの人工乳房、人工ニップルは、企業ブースで展示もされていました
3Dシミュレーション体験は、株式会社インテクグラルのベクトラハンディタイプH2で胸部を撮影し、内蔵する乳房インプラントのデータを使ってシミュレーションするというものです。インプラントの形状には、丸い「ラウンド型」と下方に厚みがある「アナトミカル型」の2つがありますが「どちらにしようか悩んでいるので、3Dシミュレーションを参考にしたい」という人が多くいました。
第3部は、参加者の皆さんからの質問に、第1部で講演をした岩平先生、寺尾先生、佐武先生が答えるQ&Aの時間です。
参加者からの、数多くの質問に答える岩平先生、寺尾先生、佐武先生
時間いっぱいまで先生方に寄せられる質問に、納得できる形で乳房再建したいという患者さんの強い想いを感じました。
【参考】NPO法人E-BeC (エンパワリング ブレストキャンサー)
https://www.e-bec.com
【編集後記】ティーペックブースで実施した保険の付帯サービスアンケートについて
ティーペックのブースではパネルにシールを貼っていただく参加型アンケートを実施しました。
①「保険の付帯サービスの無料で利用できるセカンドオピニオン手配サービスを知っていますか?」
②「使いたい/使いたかったサービスはどれですか?」
(セカオピ手配サービス・専門医電話相談サービス・医師情報提供サービス)
結果はこちらです。
セカンドオピニオン手配サービスは「知らなかった」という回答がやはり多くありました。使いたいサービスに関しては、大きな偏りはなく、求める情報の多様化が見える結果になりました。
回答時に、乳がんサバイバーの皆様からたくさんの感想やご意見をお聞きすることができ、とても勉強になりました。今後のサービス向上に役立ててまいります。
取材・撮影・執筆/瀬田尚子(医療ライター)
編集/大井美深(ティーペック広報)
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※当記事は2023年11月時点で作成したものです。