がんの最新データ~コロナ禍で早期がんの診断数が減少!?~【医師監修】
「新型コロナウイルス感染症に関するニュースが連日流れ、がんについての話題が減った」そんな風に感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
日本のがんの罹患数や死亡数は年々増加し続けています。将来がんとともに生きていくことも考え、私たち一人ひとりが「がん」を取り巻く現状を知っておく必要があります。
そこで今回は、日本におけるがんの現状を、最新データを中心に解説していきます。
(以下、医師監修による記事です。)
2021年にがんと診断された人は100万人を超える見通し
2人に1人が生涯で一度はがんにかかるといわれています。その一方で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う受診控えなどによるがん診療への影響も懸念されています。
国内のがん統計は、罹患数が2~3年、死亡数は1~2年遅れで公表されています。その最新の統計では、2018年に新たにがんと診断されたのは、男性が558,874人、女性が421,964人で、男女合計で100万人に迫っています(※1)。また、2020年にがんで死亡した人は378,385人にのぼります(※2)。
国立がん研究センターでは、これらの公表データや性・年齢階級別将来推計人口から2021年のがん罹患数及び死亡数の予測値を公表しています。2021年のがん罹患数は、男性が約58万人、女性が約43万人で、100万人を超えると予測されています。また、がん死亡数予測は約38万人で、男性約22万人に対し女性が約16万人と、男性のほうが多くなっています(※3)。
*予測に、上皮内がんは含まれていません。
*男と女の合計が総数に一致しない場合がございます。
【出典】
※1 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14
※2 厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei20/index.html
※3 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計予測」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html
死因のトップは変わらず「がん」
日本における死亡数を死因別にみると、1981年以降、変わらずがんが死因の1位となっており、人口10万人に対する死亡率も年々上昇しています。2020年は、がんの死亡数が378,356人(人口10万人あたりの死亡率は307.0)で、死亡数の27.6%をしめています(※4)。
特に年齢階級(5歳階級)別でみると、年齢階級が高くなるにつれてがんが死因となる割合が高くなっており、がん死亡率の上昇には、人口の高齢化が大きく関わっているといえます。そのため、高齢化など年齢構成の変化の影響を除いた「年齢調整死亡率」を確認すると、がんの死亡率は1990年代半ばをピークに、近年は減少しています(※5)。
一方、がん5年相対生存率(*)は多くの部位で上昇傾向となっています。国立がん研究センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計」よると、2009年から2011年の全部位における5年相対生存率は64.1%です。前回の2006年から2008年の5年相対生存率62.1%と比較しても向上していることがわかります(※6)。
*5年相対生存率:ある部位のがんと診断された患者さんが5年後に生存している割合が日本人全体で生存している人の割合に比べてどのくらい低いかを表す指標
**当記事では「解析対象2」のデータを参照した。「解析対象2」は「解析対象1」(36地域の罹患数総計のうち、死亡情報のみの登録(DCO)、第2がん以降、悪性腫瘍以外、上皮内がん(大腸の粘膜がんを含む)、年齢不詳及び100歳以上を除外したデータ)から「がん死亡情報からの遡り調査による登録」を除外したデータ
【出典】
※4 厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai20/dl/gaikyouR2.pdf
※5 国立がん研究センターがん情報サービス「年次推移」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html
※6 国立がん研究センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告」(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020年3月)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/ncr/monitoring.html
男性は前立腺がん、女性は乳がんが最も多い
がんは部位によっても罹患数や死亡数が異なり、罹患数が多い部位で死亡数が多いとは限りません。また、男女によってもその割合が異なります。
2021年のがん罹患数予測によれば、男性は前立腺がんが最も多く、続く胃がん、大腸がん、肺がんを加えた4つの部位のがん罹患数で全がんの約62%をしめます。そのうち、前立腺がん・胃がん・大腸がんの全がんにしめる割合は、2018年の割合と比較すると増加しており、肺がんは減少しています。(※1、6)
また、男性のがん死亡数予測では、肺がんが最も多く、全がんの24%をしめ、大腸がん、胃がんと続きます(※6)。
女性では、全がんの罹患数の約22%が乳がんで、次に大腸がん、肺がんと続きます。この上位3部位の全がんにしめる割合は、2018年で約48%、2021年の罹患予測では47%と変わらず半数近くをしめていることがわかります。(※1、6)死亡数の予測では、大腸がんが最も多く、肺がん、すい臓がんと続きます(※6)。
*予測に、上皮内がんは含まれていません。
一方で、2009年から2011年の全部位におけるがん5年相対生存率でみると、男性の罹患数予測トップの前立腺がんは99.1%、女性の罹患数予測トップの乳がんは92.3%と高く、前立腺がんや乳がんは罹患数が多いものの、5年生存率は高く、死亡数が多いわけではないことがみてとれます(※7)。
しかし、男女ともに罹患数の予測上位10部位のうち、肺がんやすい臓がん、肝臓(肝・肝内胆管)がんは5年相対生存率が40%を下回っている状況です(※7)。
【出典】
※6 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計予測」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html
※7 国立がん研究センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告」(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020年3月)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/ncr/monitoring.html
コロナ禍でがん検診はどう変わったのか?
2020年4月、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言を受けて、多くの自治体ががん検診を中止・延期したことで、がん検診受診者数が大幅に減少しました。公益財団法人日本対がん協会等による調査では、7都府県に対する緊急事態宣言期間中の2020年4、5月にがん検診受診者が対前年の同月比で8~9割減となったといいます(※8)。
これを受けて、2020年5月には厚生労働省が自治体の感染状況を踏まえて制度趣旨に沿った適切ながん検診の実施を通達したことで、一時期の大幅減は解消しました。しかし、感染予防の観点から集団検診の実施が困難となったこともあり、2020年の5つのがん検診(胃、肺、大腸、乳、子宮頸)の受診者は、対前年比30.5%の大幅減となりました(※9)。
日本対がん協会等は「新型コロナウイルス感染症の流行がなければ発見できたがんが約9%あったと推測される」とも公表しています。特に早期がんの診断数が減少していたことから、将来的な進行がん発見の増加、がん死亡率の上昇の可能性も指摘されています。(※10)
がん検診については、2021年4月に再び厚生労働省から、「『がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針』に基づいた検診間隔でがん検診を実施することが望ましく、がん検診は『不要不急の外出』にはあたらないものと考えられる」との通達が出されました。
がん検診の受診控えは、がんの発見の遅れにつながります。各種検診を行う施設では、日本対がん協会等8団体による「健康診断実施時における新型コロナウイルス感染症対策について」をもとに十分な感染対策がとられています。受診時には基本の感染対策を行ったうえで定期的にがん検診を受け、がんの早期発見に努めることが大切です。
【出典】
※8 公益財団法人 日本対がん協会「対がん協会報 第694号2020年11月1日」
https://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/TAIGAN-11_4c.pdf
※9 公益財団法人 日本対がん協会「対がん協会報 第700号2021年4月1日」
https://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/TAIGAN-04_4c-1.pdf?y=2021&cat=report&num=2
※10 公益財団法人 日本対がん協会「対がん協会報 第708号2021年12月1日」
https://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/TAIGAN-12-708_4c-1.pdf?y=2021&cat=report&num=1
おわりに
「がん」の早期発見には、私たち一人ひとりのリテラシー向上も欠かせません。日本のがんの最新情報や現状を理解し、お客様や身近な方々との話題の1つとして、本記事をご活用いただけますと幸いです。
また、ティーペックの24時間健康相談サービスでは、保健師や看護師などの相談スタッフが、「がん」に関連するご不安やお悩みなどをおうかがいしておりますので、あわせてご案内ください。
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≪執筆者プロフィール≫
木村 眞樹子医師
医学部を卒業後、循環器内科、内科、睡眠科として臨床に従事している。
妊娠、出産を経て、また産業医としても働くなかで予防医学への関心が高まった。医療機関で患者の病気と向き合うだけでなく、医療に関わる前の人たちに情報を伝えることの重要性を感じ、webメディアで発信も行っている。
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参考
・国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14
・国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計予測」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/short_pred.html
・国立がん研究センターがん情報サービス「年次推移」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html
・国立がん研究センターがん情報サービス「全国がん罹患モニタリング集計 2009-2011年生存率報告」(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター, 2020年3月)
https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/ncr/monitoring.html
・厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei20/index.html
・厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言を踏まえたがん検診における対応について(令和3年4月26日)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000777298.pdf
・厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(令和3年10月1日一部改正)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000838645.pdf
・厚生労働省「健康診査実施機関における新型コロナウイルス感染症対策について(情報提供)(令和2年5月26日)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000659182.pdf
・公益財団法人 日本対がん協会「対がん協会報 第694号2020年11月1日」
https://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/TAIGAN-11_4c.pdf
・公益財団法人 日本対がん協会「対がん協会報 第700号2021年4月1日」
https://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/TAIGAN-04_4c-1.pdf?y=2021&cat=report&num=2
・公益財団法人 日本対がん協会「対がん協会報 第708号2021年12月1日」
https://www.jcancer.jp/wp-content/uploads/TAIGAN-12-708_4c-1.pdf?y=2021&cat=report&num=1
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※当記事は2022年2月時点で作成されたものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事が全てのケースにおいて当てはまるわけではありません。