特集
インタビュー/座談会 2024/07/19

【スポーツで読む・知る・病気のコト!No.2再生不良性貧血】突然病気と診断されたら?メダリストに聞く「こころ」の整え方とメンタルヘルスケア

2012年、ロンドンオリンピックのバドミントン女子ダブルスで、銀メダルに輝いた藤井瑞希さん。2019年に現役を引退したあとは、バドミントンに限らず、幅広い分野で精力的に活動を続けてきた藤井さんを、2022年に病が襲いました。診断は、指定難病の再生不良性貧血。赤血球・白血球・血小板が減少する病気で、日本では年間約1000人が発症する希少な疾患です(難病情報センターホームページ(2024年5月現在)から引用、改変)。

「診断された時は意外と冷静で、治す努力をするしかないと思っていました」と語る藤井さん。静かな気持ちで病気と向き合い、前に着実に進む藤井さんの「こころ」の整え方とメンタルヘルスケアについて、お話をうかがいました。

<対談メンバー>
藤井瑞希さん:ロンドンオリンピック バドミントン女子ダブルス 銀メダリスト
大井美深さん:T-PEC株式会社 経営企画部
三宅雄大さん:T-PEC株式会社 ヘルスケアストラテジー部

オリンピックでさえ緊張しなかった!?

事前準備と思考のポジティブ変換力がキーワード

三宅:
僕は学生の時にバドミントンをやっていたのですが、藤井さんは、オリンピックでもあまり緊張をしなかったと聞いて、とても驚きました。何か藤井さんならではのメンタル維持の方法とかがあったのでしょうか?

藤井瑞希さん(以下、藤井さん):
私もテレビに出演したり、講演をしたりする時は緊張します。バドミントンの試合では、子供の時から大舞台を経験することが多かったので、「試合前にトイレの鏡の前で笑顔を作る」とか「負けたって、死ぬわけじゃないからと考える」とか、会場で聴く音楽とか、緊張をほぐすためのルーティーンをいろいろ試していました。試行錯誤の末、「『試合当日に、緊張したって仕方ないし』と思えるくらい、しっかり準備をする」というやり方に辿り着いたんです。自分が納得行くまで事前準備をしたなら、結果がどうあれ、それは素直に受け入れるだけです。

バドミントンの試合だけではなく、普段から発想の変換はしているので、悪いこともポジティブに変換する能力が高いと自覚しています。これが、周りからメンタルが強いと言われる理由かなと思います。

三宅:
オリンピック後の全日本総合選手権の決勝で、前十字靭帯断裂という大ケガをなさっていますよね。その時は落ち込んだりしませんでしたか?

藤井さん:
1ミリもないですね。
ケガして3ヶ月間は全くトレーニングができなかったので、「家にこもっていてもしようがないので、心の充実期間にしよう」と、他のアスリートや経営者などいろんな人とお食事して、良い刺激をもらっていました。

大井:
ケガを不幸じゃなくて、きっかけにする。まさにポジティブな変換ですね。

自分ではどうにもならないことは仕方ない「できることに着目する」

人間ドック、健康管理ができていたから早期発見できた

大井:
再生不良性貧血の診断を受けたと綴ったSNSの文章に、「意外に私自身は冷静で」と書かれていたのですが、動揺とか不安はなかったのでしょうか?

藤井さん:
聞いたことのない病名でしたし、よくわからないという点では少し不安はありましたが、あまり慌てませんでした。私は、アスリートとして、ずっと健康管理には人一倍気を配っていたと自負しています。食事はもちろん、毎年必ず人間ドックも受けていましたし、「何かおかしい」と感じたらすぐに病院に行っていたので、「何かあったとしても初期の可能性は高いし、なってしまったものはしょうがない」という気持ちでいました。

大井:
あの投稿の中の「変えられないもの(過去)を後悔したり悩むことより、変えられるものを変える努力(治療)をやりきろうとポジティブに考えられました」という言葉は、同じ病気や難病の患者さんたちに勇気を与えるものだと感じました。

藤井さん:
前十字靭帯のケガの時もそうでしたが、気持ちの変換ですね。嫌なことや悪いことばかり考えたとて良いことなんて何もないから、現状で何ができるのかを考えた方がいいと、私は思っています。「自分ではどうしようもないことではなく、自分ができることに着目する」がポイントで。

診断を受けた後に一番にしたのは「引っ越し」でした。
当時住んでいたのが小さめの部屋でした。元気な時は外に出るので小さい部屋でもいいですけれど、家にいる時間が長くなるなら広くて居心地の良い部屋で過ごしたいですよね。自分のご機嫌をとりました。


大井:
今はどのような治療をなさっているのですか? あと体調はどのような感じでしょうか?

藤井さん:
現在は、病院に2ヶ月に1回通い、診察と血液検査を受けて、薬をもらっています。
体調が悪いところはありませんが、激しい運動は禁止されています。ただ、赤血球と血小板の数値がだいぶ上がってきているので、バドミントンの指導の動きくらいなら大丈夫と言われています。

病気になって得た経験を、広く伝えていきたい

何か影響が与えられる仕事があれば、やらないのはもったいない

三宅:
再生不良性貧血を発症してから、藤井さんの中で何か変わったこととかありますか?

藤井さん:
そうですね。まず、これまではバドミントンの指導は子供のみだったのですが、大人にも指導するようになったことでしょうか。
以前は、大人に指導をするのに苦手意識がありました。病気になる前は声がかかっても積極的になれなかったのですが、病気になってからは「自分が誰かのためになれることはやろう」という意識が強くなってきました。

三宅:
今年4月から広島ガスさんのエグゼクティブアドバイザーに就任されたのも、その変化のひとつですか?

藤井さん:
そうですね。「もし自分のこれまでの経験が誰かの力になるのであれば、やらないのはもったいない」というような気持ちがありました。

それから病気になってからは、できるだけ不安や不満は持たずにいたいと思っているので、苦手な場所で我慢してまで過ごしたりするのは時間が惜しく感じて、本当に行きたいと思うところにだけ行くようにしています。別に冷たいと思われても平気です(笑)
仕事でもプライベートでも、無理に相手に合わせるようなこともしませんし、とにかくすごく生きやすくなりました。

大井:
再生不良性貧血になってしまったことはとても大変なことですが、今、こうしてお話を聞いていると、病気になったことも含めて藤井さんの人生が輝いていますね。

藤井さん:
以前は「もっと〇〇したい!」みたいな将来に対しての欲があったのですが、病気になってからは、先のことよりも今を大切にするようになりました。体調がいいだけで、とても幸せです。
ぐっすり眠ることができたり、ご飯が美味しく食べられたり、一つ一つをかけがえのないものと感じています。

健康をおろそかにする人を見ると、腹立たしく感じてしまうようになりましたよ(笑)

三宅:
今後、どのようなことに力を入れて取り組んでいきたいか、教えてください。

藤井さん:
まずは元気でいること。

同じ病気の人が、不安なことが多い中、私を見て前向きな気持ちになってくれるように、元気に過ごすための努力をしていきたいです。加えて、今後は講演などを通じて、病気になったことで得た経験を皆さんに伝えて、生かしてもらえるような活動を積極的にしていきたいと考えています。もし、お手伝いできることがあれば、お声がけいただけると嬉しいです。

―――最後に保険の営業スタッフの皆さまへメッセージをお願いします。
保険は入っておいた方がいいですし、年に1回の人間ドック(健康診断)は必須だと思います。治療生活にはどうしてもお金がかかります。そんなとき、保険に入っていたら気持ちの支えになると思います。でも、お金があっても、病気が進行していたらそれは大変なこと。やはり早期発見したいですよね。保険営業スタッフのみなさまには早期発見の重要さは伝えてほしいです。


―――藤井さん、ありがとうございました。

■プロフィール

藤井 瑞希 Mizuki Fujii

2012 ロンドンオリンピック バドミントン女子ダブルス 銀メダリスト
1988年8月5日 生まれ熊本県芦北町 出身(あしきた親善大使)
広島ガスバドミントン部 エグゼクティブアドバイザー
日本バドミントン協会 強化委員
YONEX アドバイザリースタッフ
姉二人の影響を受け、5歳よりバドミントンを始める。

青森山田高校へ進学し、2006年の全国高校総体では当時25年振りとなる3冠を達成。NEC入社後、シングルスからダブルスに転向し、垣岩令佳さんとのペアで2012年ロンドンオリンピックに出場し、銀メダルを獲得。日本バドミントン界初のオリンピックメダリストとなった。2014年に日本人初のヨーロッパリーグに参戦し、ドイツとイギリスで活躍。2016年には故郷・熊本を襲った震災をきっかけに国内でプロ選手として復帰し、再春館製薬所でフジカキペアを再結成。2019年2月に現役を引退。

現在は、東京オリンピックでバドミントン競技のJC解説をつとめるなど、テレビ解説者や全国各地でバドミントンの普及活動を行っている。

【オフィシャルサイト】https://www.mizuki-fujii.com/
【インスタグラム】@bdmntnfujiimizuki
【X】@mizuking0805
【Youtube】 https://www.youtube.com/c/MizukiFujiiBadmintonChannel


******

インタビュー・撮影・執筆/瀬田尚子(医療ライター)

******

※当記事は2024年7月時点で作成したものです。
※当記事は個人の体験談に基づくものです。