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インタビュー/座談会 2022/02/10

その老後のプランは実現可能?親の介護問題から考える、人生100年時代のライフプラン設計

来たる「人生100年時代」、親の介護や自分の老後などに対し、不安に感じている人は少なくないはずです。安心して最期まで暮らすために必要なものは何なのでしょうか。

介護、任意後見、ライフプランノート(エンディングノート)など、自分らしく生きるためのサポートを行う「認定NPOまな市民後見人セーフティーネット」代表理事の村田陽子さんをお招きし、介護問題から、実現可能なライフプランについてお話をうかがいました。

<対談メンバー>
村田陽子さん:保健師、認定NPOまな市民後見人セーフティーネット 代表理事(中央)
木下佳奈さん:ティーペック株式会社 ヘルスケアストラテジー部(右)
三宅雄大さん:ティーペック株式会社 ヘルスケアストラテジー部(左)

来たる人生100年時代。介護者ではなく、親のマネージャーになる

三宅:親の介護に関する相談はどのようなものが多いですか? 介護が必要となるのは80代くらいからでしょうか? 

村田:60代くらいから病気などの理由で必要な方はいますが、やはり70代後半〜80代からでしょうか。離れて一人暮らしをしている親御さんが「自分で食事が作れない」「買い物に行けない」という状態になって、放って置けなくなった時に「どこの老人ホームに入れようか」という相談が多いですね。

木下:具体的な相談例を教えていただけますか。

村田:姑さんの介護の件で相談にいらした女性がいました。姑さんには2人の息子がいて、彼女は次男のお嫁さん。
長男が仕事をしながら、病気で足腰も立たない姑さんを介護しているそうです。次男夫婦は、このままでは長男が介護離職になることを心配して、施設に入れることを提案したところ、長男は頑として拒否。「施設になんて、絶対嫌だ」と言ったそうです。

三宅:その長男の気持ち、少しわかる気がします。自分がみなければという使命感。そして世間体。施設に入れることを悪と感じてしまうのですよね。

村田:「あんなところに入れたくない」「姥捨山みたいなところに」と見たこともないのに悪いイメージを持ってしまっている。どちらかといえば男性に多い傾向はありますね。

この相談のケースでは、「まずはお兄さんと一緒に施設見学に行きましょう」と提案しました。悪い施設もあれば良い施設もある。お母さんを預けられるかどうか、実際に見て確認してもらいたいと連れて行きました。すると「良い施設がありますね」という話になったのです。

真面目な人は「自分で面倒見なきゃ」と思いがちですが、自分で介護していると疲れてしまい、親御さんのことを嫌いになる瞬間がくる…そんな悲しい結果にならないように、施設に任せた上でいい息子、娘として定期的に通ってあげたらいい。介護者ではなくマネージャーに徹して、親御さんがいい生活ができるように管理・監督すればいいんです。

子どもがやりがちな老人ホーム選びの間違い…仕事・自分の生活もある中、月に何回ぐらい施設に行けますか?

木下:施設をどう選ぶか、がとても重要だと思うのですが、いろいろあって何を基準にしていいかわからないのですが。

村田:まず「どういう人が入るのか」。認知症があるのか無いのか、ご本人がどういう生活を希望しているのか。それに合う施設を探すということです。お子さんが施設を探すときにやりがちな失敗に「自分の住まいの近くで探す」というのがあります。

三宅:私の親は地方に住んでいるのですが、介護が必要になったら東京に呼んだほうがいいのかなと考えていました。施設も自分の住まいの近くなら、会いに行きやすくていいと思うのですが…

村田:まず親を呼ぶということは、地域内の親御さんの人間関係を断つことになります。友達がいて、親戚が周りにいて。良くも悪くも60年、70年かけてつくり上げてきた人間関係がそこにあります。それを全部断ち切って別の場所に来るということは孤独になるということ。その孤独を子どもが埋められるかを考える必要があります。

私の母も地方に住んでいるのですが、方言があり、まず東京とは言葉が違います。施設に入れるとしたら「母にとってはなじんだ言葉を話してくれる介護士さんがいるところに」と思っているので、東京に良い施設はありますが、住み慣れた地域から切り離すことは考えていないです。

木下:言葉や習慣が違う、知り合いがいないとなると、孤独からコミュニケーション不足となり、認知症が進んでしまう恐れがありますよね。

村田:そうなのです。

また、子ども側も仕事や自分の家庭がありますから、自分の住まいの近くの施設だとしても月に1〜2回会いに行けるかどうかというのが現実的なところかと思います。それなら、親御さんの住まいの近くの施設にして、2ヶ月に1回でも旅行気分で会いに行ってあげるほうがお互い良いと思います。その分、行けない時にしっかり介護をしてくれる良い施設を選ぶことが大切ですね。

三宅:確かに、その通りですね。でも「しっかり介護をしてくれる良い施設」はどう見極めればいいのでしょうか。インターネットを見てもそこまではわからないですよね。

村田:施設に足を運んで、介護されている人と介護している人の顔を見ることです。あえてご飯の時間に行くことをおすすめします。入居しているみなさんの顔が見られるから。楽しそうにご飯を食べているところは良い施設です。そして1つ見ただけで決めないこと。「ここいいな」と思っても、もう1〜2件まわってみたほうが気持ち的に楽だし、後悔もしないので。

木下:入居費が高いほうが良い施設なのかな、となんとなく思ってしまうのですが…。

村田:あくまでも施設の良し悪しは「人」なので、高いから良い施設というわけではないですね。

入居費が高いところは建物や内装が立派です。天井が高かったり、ドアマンがいたり。でもそれが必要なのはお元気な時です。介護が必要になったら、歩行機能が落ちて行動範囲が狭くなるので、そんなに広いスペースは必要ありません。トイレは部屋やベッドからできるだけ近いほうがいいですし、もし汚しちゃった時に、室内シャワーはあるほうがいいです。でも、ひとりで入浴ができなければ部屋にお風呂も必要ありません。あと床は滑りにくいほうがいいなどポイントはあります。

木下:元気な時と身体能力が落ちてきた時に必要になるものは変わってくる。子どもが選んでしまうと、つい見落としがちな視点ですね。

村田:それから、インターネットで施設の検索をすると、上位には広告を出している施設が出てきます。これは私の意見にもなりますが、人気のある施設は広告をわざわざ出す必要がないと思うので、広告を出しているところよりも別に良い施設があると考えるのが自然かなと思っています。ネットは便利ですが、そういう仕組みを理解した上で探してみてください。

要介護、病気になった時に自分の希望を伝える「ライフプランノート(エンディングノート)」

三宅:例えば「こういう施設に入りたい」という希望があったとしても、認知症が進んでしまうと伝えるのが難しくなってしまいますよね。もしエンディングノートなどに記しておけば、ご本人の希望を知ることができるので助かりますね。

村田:「認知症が進むなどして困ったら、施設に入れてください」と書いてあれば、お子さんは迷いませんし。

木下:「エンディングノート」という名前から、どうしても遺書を連想してしまうのですが、単に自分の意思を綴るということなのでしょうか。

村田:そうなんです。最近は同じ意味なので「ライフプランノート」と呼ぶことも多いですね。

ライフプランノートにもいろいろなものがありますが、当法人で作った「もしときファイル」(現在、詳細・購入Webサイト制作中です)は、今、増えている「おひとり様」にも使っていただけるようにしました。構成としては「自分は何者なのか」「人間関係、亡くなった時に知らせて欲しい人」「自分の健康状態」「資産関連」「保険の加入状況」「介護・葬儀の希望や、自分で判断できなくなった時の後見人」の5つです。これだけ伝えられれば、誰でもその人のマネージャーはできますから。

▲「もしときファイル」(現在、詳細・購入Webサイト制作中です)

木下:何歳くらいになったら書けばいいのでしょう。

村田:ご縁があった時にいつでも。

「もしときファイル」で言えば、口座情報や保険の加入情報などもコピーを挟んでおける仕様になっているので、災害時などでも、これ1つ持ち出せばいいので、親御さん世代に書いてもらうだけではなく、木下さんや三宅さん世代でも作ってみることをおすすめします。

また、あってほしくないことだけれど、事故や災害に年齢は関係ありません。朝、元気に出て行ったきり…ということが誰に起きてもおかしくない。それを思うと誰しも作っておいてほしいなと思っています。

今後、結婚などでライフプランにいろいろな変化があるかもしれませんが、今の状況で書いて、変化があったら修正するアップデートをしていくイメージですね。「もしときファイル」はノートではないので、入れ替えができて内容の修正が簡単です。

ダウンロード版もあるので手書きでなくてもOK。ワードで入力もできます。年に1回くらい、内容をアップデートして欲しいと思っています。

三宅:私は、親にエンディングノートの話をしたら、書くのはいいけれどお金のことをまだ子どもには言いたくないと言われました。そういう時はどうしたらいいでしょう。

村田:何かあった時にどこに連絡をとればいいかがわかっていればいいので、預金は銀行名と記号番号、保険は会社名と担当者だけ記しておけば大丈夫です。金額や詳細まで書く必要はありません。

三宅:例えば、独身で子どももいない場合、エンディングノートを作ったあと、どうすればいいのでしょうか。実行してくれる人がいないとなると不安です。

村田さん:私が代表理事を務めている「認定NPOまな市民後見人セーフティーネット」では、エンディングノートの内容を実現するためのサポートをしています。

成年後見人制度には「法定後見」と「任意後見」があるのですが、「任意後見」は将来、自身の判断能力が不十分となった時に備えるための制度のことです。血縁関係がなくても契約書があれば、財産管理や介護、亡くなった後のことなどを依頼できます。

個人に頼んでも大丈夫なのですが、年齢に関係なくどちらが先に逝くかはわからないので不安があります。その点、NPO法人などの組織に依頼すれば安心ではないでしょうか。

ライフプランノートの実現のために必要なこと

木下:ライフプランノートで描く希望の人生を送るためには、どのようなことが必要でしょうか。

村田:健康、仲間(家族や友人)、お金の3つです。その中でもまずは健康でしょう。

三宅:いろいろな制度について知っておくことは必要ですか。

村田:制度は変わるので、中身を知るよりも「こういうときにどこに相談に行けばいいのか」、つまり窓口を知っていてもらえれば、それでいいと思います。たとえば介護のことだったら、地域包括支援センターに行く、といったように。

木下:その点では、当社の24時間健康相談サービスでは、健康のことはもちろんですが、介護や任意後見についても、どこに相談をすればいいかを紹介できるので、必要になったときに聞いてみる窓口として利用していただけると思います。

村田:健康についてだけではなく、制度などの窓口についても教えてくれるのはいいですね。困った時には「ティーペック24時間健康相談サービス」。私も覚えておきます。

2021年12月にQOLに関する専門家ネットワークパートナーシップ契約をさせていただいたことで、私が目指しているライフプラン設計サポートとティーペックサービス連携が今後できるのではないかと期待しています。今の健康のことだけではなく、未来の健康について相談できる窓口は今後求められるサービスだと思います。新しい時代の老後どうする問題、一緒に頑張りましょう。

――村田さん、ありがとうございました。


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ライティング・写真:瀬田 尚子

※当記事は2022年2月時点で作成されたものです。
※当記事は個人の体験談に基づくものです。