特集
インタビュー/座談会 2021/11/09

日本初の食道がんの患者会「食がんリングス」―患者として知りたいこと、医療者から伝えたいこと、飲酒リスクなどを正しく伝える活動を展開

今まで患者会がなかった食道がん。

2020年に初めて食道がんの患者会「食道がんサバイバーズシェアリングス(食がんリングス)」が立ち上がりました。わずか1年でイベントや定期患者会開催のほか、YouTubeなどのコンテンツも充実している注目の患者会です。今回、関係者の皆様にご協力いただき、患者会設立の経緯、活動内容や今後の展開などをお聞きしました。

インタビュー当日は、食がんリングスの代表理事の髙木様、ワーキンググループのメンバーの中島さん、そして、医療アドバイザーの先生3名にご参加いただきました。

<インタビュー参加メンバー>

(一般社団法人)食道がんサバイバーズシェアリングス代表理事

〇髙木 健二郎さん
2012年3月:胸部食道がんステージⅢ(リンパ節2カ所転移)
お酒の飲めない典型的な赤くなる体質にもかかわらず、大量飲酒と喫煙を28年間継続。2クールの化学療法後に食道亜全摘胃管再建の手術。後に誤嚥性肺炎を乗り越え、左反回神経麻痺が残るが再発もなく2021年現在に至る。

飲酒と発がんリスクを考えるグループメンバー

〇中島 啓子さん
40代前半の2012年4月に乳がん(ステージ2a)、1年後に食道がんを罹患し、同時期に2つのがん治療を行う。食道がんはEMRで切除。職域グループ内で『がん治療と就労の両立』をテーマにセミナーや研究会を立ち上げ活動中。今回、食がんリングスをティーペックにご紹介いただきました。

協力医師

○浜本 康夫先生
慶應義塾大学医学部 腫瘍センター准教授

○川田 研郎先生
東京医科歯科大学消化管外科 講師 光学医療診療部副部長

○横山 顕先生
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 臨床研究部長

≪目次≫

◆設立からわずか1年で充実した内容!食道がん患者会はどのようにして立ち上がったのか?
◆飲酒リスクと食道がんはあまり知られていないという現実…「体質を知る」を伝えて若い世代の将来を守ることもがん経験者の使命
◆協力を惜しまない熱い医療アドバイザー。医師からの知ってほしい食道がんのこと
◆がん経験者主体による「飲酒と発がんリスクを考えるグループ」が設立!11月の「アルコール関連問題啓発週間」を皮切りに活動を本格化

設立からわずか1年で充実した内容!食道がん患者会はどのようにして立ち上がったのか?

―――はじめに、患者会設立の経緯を教えてください。

髙木さん:

2019年の年末に、食道がんの専門医による患者の交流会があり食道がんサバイバーとして参加しました。中心メンバーが本日参加いただいている浜本先生や川田先生でした。私は交流会に参加して食道がんの患者会がないことを初めて知りました。

そして翌年の2020年6月に別のがんの疑いで生検を受けているときに、いろいろ考えることがあり、食道がんの患者会がないことを思い出しました。そして、自分でやってみようかなと思ったのがきっかけです。

さっそく、1枚の企画書を作り、交流会で出会った先生たちにメールを出しました。ただ、半年前に1回お会いしただけなので、「頑張ってください」などの返信があれば嬉しいなくらいの感覚でした。ところが、先生たちから予想以上の熱いメッセージが返ってきたのです。「協力は惜しまないので是非やってほしい」と背中を押してもらいました。

そこから、コロナ禍でしたが、法人を1か月で立ち上げ、浜本先生の市民講座に呼んでいただいたり、川田先生のブログで紹介していただいたりして活動がどんどん進んでいきました。先生たちが患者さんからの質問にも答えてくださるので、コンテンツも充実しています。設立を決めてから今まで、自分でもびっくりするぐらいスピーディーな展開でした。

設立後、様々なイベントに登壇している髙木さん

―――今までの活動の中で、印象的だったことは何ですか?

髙木さん:

月に1回、患者同士が話せるZoom定期交流会を開催しています。参加者は、ご本人がほとんどですがご家族の参加もあります。意外だったのは、自身の病気のことを話したい人がたくさんいたこと。そして、他の人の状況を知りたくても知る機会がなかったことです。今まで、患者さん同士の情報シェアが本当にできていなかったんだな…と痛感しました。食道がん患者会は必要とされていたことを改めて感じました。

まだまだ食道がんリングスを知らない人も多いので今後はもっと広めていきたいです。

飲酒リスクと食道がんはあまり知られていないという現実…「体質を知る」を伝えて若い世代の将来を守ることもがん経験者の使命

――食がんリングスは、患者交流会だけではなく、予防啓発にも力を入れていますが、きっかけなどあったのでしょうか?

髙木さん:

啓発については、設立時は考えていませんでしたが、AYA世代向けのイベントに参加したときに、食道がんは罹患年齢が比較的高いがんなのでどう伝えようか考えたことがきっかけでした。このイベントでは、若いうちからの飲酒習慣が将来のリスクになることを伝えました。

お酒、タバコなどの習慣が食道がんのリスクになります。私自身も、食道がんになるべくしてなるような飲酒の仕方を何十年もしていました。

「自分の体質を知ることが大切」というメッセージを伝えること、啓発は経験者として発信が使命ではないかと思っています。

AYA WEEK 2021 (2021年3月20日(土)開催)YouTube公開中
https://www.shokuganrings.com/aya-week-2021

――飲酒のリスクと聞くと、どうしても肝臓の病気を思い出し、なかなか食道がんリスクは思いつきませんでした。

髙木さん:

そうですね、自分もまさか食道がんになるとは思いませんでした。社会的に、飲酒は、肝臓などへのダメージの方が有名で、なかなか食道がんは思いつきません。実際、食道がんのリスクを全く知らないで飲んでいる人が多いと思います。

私たちが伝えたいことは「お酒を一切飲むな」ということではありません。やはり酒類は、伝統や文化など長きに亘り引き継がれ生活にも深く浸透しています。そこを否定するわけではないのです。伝えたいメッセージは「自分のアルコール体質を知る」です。知らなくて飲酒を続けるのは、がんリスクに無防備の状態で飲むようなもの。どのように付き合っていくかが大切です。

今年から11月のアルコール関連問題啓発週間に合わせたイベントを開催します。全世代に聞いていただきたい内容です。特に若い世代の方に参加してほしいですね。

協力を惜しまない熱い医療アドバイザー。医師からの知ってほしい食道がんのこと

―――浜本先生は以前から、食道がんの患者会設立について、呼びかけをしていたとお聞きしました。念願の食道がん患者会が立ち上がったときの感想を教えてください。

浜本先生:

私は、以前から登壇している市民講座で、食道がんの患者会がないことを毎回伝えていたり、「患者会しませんか?」と呼びかけをしていました。年に数回、検討会もしていて、そこに参加していた川田先生を誘って、準備もしていました。そのときに、髙木さんから患者会設立のメールがきました。20年以上、食道がんに携わっていたので、とても嬉しかったです。

世の中で、食道がんの情報が正しく伝えられていないことを日々感じています。テレビなどでふざけた話として紹介されて理解につながらないことや、良かれと思って誤った情報を配信している方がいたり、そして悲しいのは、それを信じてしまう患者さんがいることです。

配信されてしまっている誤った情報を消すことができないなら、対抗して正しい情報を配信するしかないと考えています。そのためには、川田先生のブログのように促進力がある情報提供や、医師以外にも、いろんな立場の人から配信していく必要があります。食がんリングスは1年ちょっとで本当に充実した活動内容で、今後の展開にもとても期待しています。

―――川田先生の協力への経緯と、先ほどから話題に上がっているブログについて、お聞きしてもいいですか?

川田先生:

私も、20年ぐらい食道がんに関わっています。食道がんに罹患する患者さんの特徴は、胃カメラ検診を受けていない方や、酒飲みで顔が赤くなる、また、飲めなかったけれど飲んでいるうちに飲めるようになった体質の方や60代で発症する方が多いなどの特徴があります。

食道がんの手術は大変なんです。食道がなくなり胃を上に押し上げるので、術後も一度にたくさん食べられない、また真っ平らに寝ると逆流する、など辛い思いをすることもあります。そして、それだけ大きな手術をしても再発の可能性もあります。また、病状が進行して切除できない場合、食道は体の中心にあり心臓や肺、気管などに密接しているので、食べられないわ、出血するわ、苦しいわで…非常に辛い状態で亡くなる人もいます。

また、食道がんは胃がん検診でついでに見つかることもありますが、やはり早期発見には内視鏡です。患者さんの中にはバリウム検査をしていたのに進んだ状態で見つかるなど悲しいケースもありました。

このような自分がもっている情報が患者さんに伝わっていない課題があり、食道がんについてのブログを始めました。

<参考>「食道癌のブログ」
https://furuhata.exblog.jp/

―――川田先生のブログは、正しい情報が掲載されているだけではなく、一般の読者が興味をもてる親しみやすい内容ですね。とても読みやすいです。

川田先生:

もともと趣味で2005年から他のブログを開設していたので、そのときのノウハウを生かして食道がんについての情報発信をしようと考えて2007年から「食道癌のブログ」を始めました。

ブログで、自分が食道がんの診療で経験したことや知識をシェアしたり、患者さんの無料相談も受けていたら浜本先生に声をかけていただき、それがきっかけで食がんリングスへ協力をしています。

食道がんは早期発見が重要ですが、そのための情報が少ないです。乳がんなどは患者会も多く、経験者が自主的に声を上げ、自分たちで動く傾向がありますが、食道がんの経験者は「お酒を飲んでいた自分のせいだから仕方ない」など自己解決してしまう方が多いように思えます。

今回の患者会の設立はとても嬉しいです。髙木さんの原動力は本当にすごいと思います。今後も全面的にサポートしていきます。

―――横山先生の協力の経緯と、先ほどからキーワードとしてあがっている「体質」について教えていただけますか?

横山先生:

きっかけは、浜本先生から食道がんの飲酒のイベントの話を聞いて参加しました。

私は久里浜病院で30年間アルコール依存症の患者さんを診ているのですが、1993年から内視鏡検診を始めると、食道がん、前がん病変がたくさん見つかりました。早期がんの発見もできています。一方でアルコール依存症の患者さんの中には、進行がんを手術した人もいます。つまり、たくさんのアルコール依存症患者に食道がんが見つかるのです。

アルコール代謝産物のアセトアルデヒドを分解する力が弱い人は飲酒により食道がんリスクが高くなると2007年世界保健機関(WHO)が発表しています。日本人は少量の飲酒で赤くなるこの体質が多いので、この情報が正しく広まれば食道がんを減らすことができると思うのです。 

<参考>厚生労働省e-ヘルスネット「アルコールと癌(がん)」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-008.html

残念なことに、このWHOの発表自体が世の中にあまり知られていません。この事実を知ってもらうには発信力がある人に頑張ってほしいと考えていますので、今回のワーキンググループの設立やイベント開催に期待をしています。

―――自分のアルコール体質を調べる方法はどのようなものがあるのでしょうか?

横山先生:

アルコールに関与する遺伝子を調べることができます。このタイプ分けでがんになりやすい人がわかります。アルコール遺伝子はキットで簡単に調べられるので人生で1回受けてみれば、自身の体質の理解につながります。

<参考>イービーエス株式会社「アルコール感受性遺伝子検査キット」
https://www.e-b-s.co.jp/company/product/alcohol/

髙木さん:

私も先生から教えていただき、遺伝子検査をしました。結果は、分析レポートと遺伝子カードが送られてきます。「少しのお酒で顔が赤くなりますが、続けて飲めばある程度飲めるようになります」というR2(飲酒による健康リスクが高いタイプ)という遺伝子タイプでした。

がん経験者主体による「飲酒と発がんリスクを考えるグループ」が設立!11月の「アルコール関連問題啓発週間」を皮切りに活動を本格化

Web開催イベント「~あなたの未来を守るために~ 飲酒の仕方で防げるがん・わかるがん」

――11月開催のWebイベントについて教えてください。

中島さん:

食道がんリングスの活動の中で、食道がんと飲酒についてワーキンググループが立ち上り、その初のイベントとして2021年11月13日に「飲酒の仕方で防げるがん・わかるがん」(https://insyurisk.shokuganrings.com/event)を開催します。

皆さんには飲酒リスクの知識をもったうえで、飲酒行動をコントロールしていただきたいと考えています。

テレビや広告などで、タバコは世界的な活動でなくなっていますが、アルコールはありますし、自販機でも購入できるなどは日本独自だと思うので。だからこそ飲み方を考えてほしいです。
特に、20歳の、いまからお酒を飲む若い方はリスクを知ってほしいので若い世代の方もぜひ参加してほしいイベントです。

「飲酒と発がんリスクを考えるグループ」公式サイトはこちら>https://insyurisk.shokuganrings.com/home


髙木さん:

この飲酒と発がんリスクを考えるグループの活動やイベントにも、たくさんの医師の協力をいただけることになり感謝しています。今後もイベントのほか、情報配信をしていきますので、ぜひシェアをお願いします。

―――皆様、インタビューにご協力ありがとうございました。

・一般社団法人 食道がんサバイバーズシェアリングス
https://www.shokuganrings.com/

知りたい情報に辿りつけず、有象無象のネット情報に翻弄された挙句に方向を見失わないよう、経験者情報を共有し交流する場の必要性を感じ、罹患者と医療者を結ぶ道の途中にある小さな駅として立ち寄っていただき、進むべき方向へと導く一助になりたいと発足いたしました。

食道がんを告知された方が、最初に陥る「どうすればいいの?」「どうなるの?」を同じ目線で経験した経験者の経験知を参考に、少しでも不安を緩和し落ち着いて治療に向き合っていただけるよう皆さんと協力し合い情報を共有していきたいと思います。

聞き手・記事執筆:高橋大、大井美深(ティーペック)


※当記事は2021年10月時点で作成されたものです。