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インタビュー/座談会 2021/04/26

がん治療による外見の変化へのサポート~男性がん患者がウィッグを希望したら?~

がん治療中、抗がん剤や放射線治療の副作用と聞くと「脱毛」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?脱毛など、治療に伴う外見(アピアランス)の変化へのサポートが、アピアランス・サポートです。「命があれば見た目なんて…」という意見もありますが、毎日見る自分自身だからこそ、見た目は治療中のメンタルヘルス維持に重要です。

この度、一般社団法人アピアランス・サポート東京の村橋紀有子さんにお話を伺いました。相談者の多くは女性であるとのことですが、今回はあまり知られていない男性のアピアランス・サポートについてお話しいただきました。治療や入院にかかる費用以外の負担、そしてがん治療に伴う精神的負担など、読者の皆様も関心が高いと思いますので、この機会にぜひご一読ください。


実際に、アピアランス・サポート東京で最も多いのは、ウィッグに関する相談だそうです。
ウィッグはメーカー各社から販売されており、素材やスタイルはさまざま。人毛かケミカル(化学繊維)、全体か部分など種類は多くあります。ただし、既製品のほとんどが女性用だそうです。

それでは、男性はどうすればいいのでしょうか?

男性がん患者さんのアピアランス相談もありますか?

アピアランス相談の多くは女性ですが、男性の相談もあります。「会社に知られたくないので、元の髪型のウィッグが欲しい」など、自分のためではなく仕事や立場からウィッグを求める方がいらっしゃいます。

最近では、ひと昔前よりおしゃれに気を使う男性も増えてきていますので、今後は男性の相談も増える可能性があると思います。

現状、女性向けのような、お手頃な男性用の既製品はとても少ないです。頭の小さい男性なら女性用をカットして代用できますが、男性はやはり頭が大きいので難しい場合もあります。サロンでは、男性用の既製品を扱っているメーカー数社からウィッグを取り寄せ、サイズ、白髪の量など相談者の好みに近いものをご紹介しています。

あと問題となるのは、髪型です。
男性でも、若い方や長い髪のヘアスタイルですと、既製のウィッグをカットして対応可能ですが、中高年以降になると、女性と比べて男性のほうが、生え際や分け目などが多種多様になり、個性があります。

元の髪型となると、フルオーダーかセミオーダーでウィッグを作るか、それでも難しい場合は一緒に対策を考えます。

ウィッグを購入するにあたり、費用はいくらぐらいを考えておけばいいですか? また、オーダーになるといくらぐらいかかりますか?

ウィッグを購入する費用は、素材やデザイン、販売しているメーカーなどによって変わります。予算としては、現在アピアランス・サポート東京で取り扱っている既製品で1万円代~6万円、セミオーダーで10万円~、フルオーダーで30万円~40万円を想定していただければいいかと思います。

また、馴染ませるためや希望の髪型にするためのカットも必要となります。ウィッグのカットは地毛のカットと技術が異なりますので、対応しているヘアサロンに相談してください。カット代はサロンにより異なりますが、アピアランス・サポート東京の場合は6000円~8000円です。

上図は、ウィッグ導入の流れの一例です。地毛のカットやウィッグ調整などが必要なので、アピアランス・サポートができるサロンを選ぶことをお勧めします。

人毛とケミカル(化学繊維)の特徴を教えてください。

人毛のウィッグは自然な手触りで、見た目にも自然な光沢があり、カラーリングやアレンジ、セットなども可能です。雨などで濡れた際も、地毛と同じくしっとりと濡れます。

ケミカルの手触りは、ストレート感や弾力があり、少し艶があるため、不自然さを感じると心配される方もいますが、不自然さのないものもあります。カラーリングはできませんが、アレンジやセットは可能です。アイロンやドライヤーなどが使える耐熱毛もあります。

人毛とケミカルのミックスでは、人毛のような自然な触感と光沢があり、人毛部分はカラーリングも可能です。

下表は、経年劣化も含めた各ウィッグの特徴です。

こちらはウィッグの生え際の写真です。より自然に見せるためにパウダーで艶を消すこともあるそうです。

男性のアピアランス・サポートでウィッグ以外の相談はありますか?

髪の毛に関してお話しすると、ウィッグ以外のアイテムで一工夫することで、自然に見える髪型に仕上げることができます。

例えば、化粧用のシャドウパウダーがあるのですが、それを分け目につけると頭皮の艶を消してくれて、自然な見た目に再現することもできます。

「脱毛」と聞くと髪の毛のイメージがあると思うのですが、まつ毛、眉毛も脱毛します。ウィッグをつけても、まつ毛や眉毛がないと印象が変わってしまうので、その部位のサポートもしています。

簡単にいえば、「眉毛を描く」などお化粧の分野です。眉の地毛がない場所に眉毛を描くのは女性でも難しいのですが、男性はもともと化粧をすることに慣れている方が少ないので、より難しいようです。その場合は、長期間消えないペンシルで元の眉毛を描いて、つけたし方法などのレクチャーを行います。また、眉シールなど、便利なグッズもたくさんあるので紹介することもあります。

あとは、皮膚も弱くなっているので皮膚のケアも必要です。化粧水やクリームなどによる保湿ですが、どのような商品を選べばいいのかなどアドバイスをします。

抗がん剤は爪にも影響することがあり、爪が黒ずむなどの副作用もあります。指先はよく人から見られますし、自分の目にもつく箇所です。

アピアランス・サポート東京では、ネイリストが治療の影響で弱くなった爪や変色した爪のケアもしています。爪のケアをすることで、爪を自然な色に見せるだけでなく、爪の保護にもなります。自身でもネイルケアはできますが、ネイルカラーやネイルシールなどは、オフするときに地爪に負担の少ないものを選ぶ必要があります。

また、爪の保湿を毎日することもお勧めしています。抗がん剤の治療中は、二枚爪になることや爪が剥がれやすくなることも多いので、しっかりと保湿をすることで、副作用が軽減されるといわれています。

村橋さんより、読者の皆様にコメントをお願いします。

脱毛を伴う抗がん剤治療を行うと、約1年~2年はウィッグを必要とする生活をすることになるといわれています。どのウィッグが一番良いか?という質問がよくありますが、使用頻度、希望の髪型など個人の希望ごとにベストなウィッグは変わります。
そして、男性を対象にした情報が少ないことから、本当はウィッグを使用したくても「アピアランス・サポートの対象は女性だから…」と諦めているお客様もいるかもしれません。
アピアランス・サポート東京では、男女問わず相談者一人ひとりの希望をヒアリングして、丁寧にサポートをさせていただきます。

<プロフィール>
一般社団法人アピアランス・サポート東京理事
アピアランス・サポート相談室 室長
村橋 紀有子(むらはし ようこ)

電気パーマネントの国産機を開発した祖父から3代続く老舗美容室に嫁ぎ、サロン独自の「彫刻的カット技法」やフェイシャル技術など 伝統的美容技術を基礎から習得し、美容師として多くの経験を持つほか、スキンケアやマッサージ等の外見に関わるさまざまな資格を取得。平成28年10月に港区と「がん患者への支援に関する連携協定」を締結し、外見(アピアランス)のケアに関する相談窓口として、みなとアピアランス・サポート相談室を開設。現在は一般社団法人アピアランス・サポート東京の室長としてアピアランス・サポートを行っている。

・一般社団法人アピアランス・サポート東京
https://app-sup.com/


※当記事は、読者の皆様の参考になるようにできるだけ具体的な例や金額例を挙げておりますが、アピアランス・サポートを行う会社・団体、市場価格の変動、アピアランス・サポートに関係するガイドライン改正等により差異がある場合がございますので、ご了承ください(2021年3月取材)。

写真:瀬田尚子 
インタビュー:大井美深(ティーペック広報)


※当記事は2021年4月に作成したものです。