健康・予防
その他 2015/12/01

慢性疲労を放置しない

朝起きてなお残る疲労感に、「以前は一晩寝たら疲れがとれたのに」と思うことはありませんか。ほかにも「ちょっとしたことで疲れやすくなった」「夕方になると疲れがドッと出る」など、仕事に家庭に忙しい毎日の中で、これまでと違う疲労を感じている人もいることでしょう。

はっきりした原因がないまま疲労感が続く、あるいは回復しない場合は、心と体から発せられるSOSのサインです。自分でも知らないうち異常に疲れが蓄積する「慢性疲労」という状態に陥ってしまっているのかもしれません。

疲労感が半年以上続いていたら慢性疲労

慢性疲労とは、「6ヵ月以上疲労が続き、一晩寝ても疲れがとれない」状態を指します。かつて厚生省(現厚生労働省)が行った調査では、日本人の3人に1人が慢性疲労を訴えていると報告されています。IT化が進みストレスが増したと言われる現代では、さらに慢性疲労を訴える人の割合は高くなっていることが推測されます。

慢性疲労になると、作業量や活動量の低下という日常生活への影響ばかりでなく、思考力、注意力の低下から思わぬ事故を招く原因にもなります。さらにそのまま放置しておけば、うつ病などの心の病気や生活習慣病など、さまざまな疾患を誘発することにつながります。

慢性疲労のもとは4つの疲れの連鎖

疲労にもいろいろ種類がありますが、大きくは4つ、「内臓の疲れ」「自律神経の疲れ」「精神的な疲れ」「肉体の疲れ」に分類することができます。そして、これらはすべて影響し合い、スパイラルとなってつながっています。

<疲れたので、元気を出そうとして高エネルギー食をとる → 内臓を疲れさせ、夜中まで消化活動モードになる → 大脳が眠れないため、睡眠の質が落ちる → ますます休息と活動のスイッチの切り替えがうまくいかなくなり、自律神経が乱れる → ホルモンや神経伝達物質の分泌にまで乱れが生じ、精神的に不安定になり、イライラしてやけ食い、やけ酒をする → さらに内臓を疲れさせる>

これが出口のない疲労の悪循環であり、典型的な現代人の疲労における負のループです。

こんな自覚症状が増えてきたら要注意!!

[内臓の疲れ]

□便秘がちである  □よく下痢をする  □食後に胃がもたれる
□肌荒れや吹き出物がある  □ときどき胃がムカムカする

[精神的な疲れ]

□ささいなことですぐ腹が立つ  □最近ワクワクすることがない
□お酒を飲むと愚痴が増える  □すぐに後悔する
□いつでも仕事のことが気になる

[自律神経の疲れ]

□なかなか寝つけない  □朝は食欲がない  □仕事へのとりかかりが遅い
□排便の時間が不規則  □急に体がほてったり冷えたりする

[体の疲れ]

□体がだるい  □目が疲れる  □単純ミスをよくする  □肩がこる
□乗り物に乗るとすぐ座りたくなる

疲労の陰に病気が潜んでいることも

慢性疲労は病気につながるだけでなく、すでにかかっている病気を知らせるアラームとして起きている可能性もあるため、ほうっておくとそれらの病気を進行させてしまうおそれがあります。疲労感を伴う病気は、高血圧、低血圧、心臓や肺、呼吸器の異常、貧血、糖尿病、肝機能異常、腎臓の異常、甲状腺の異常、がん、ウイルス感染などさまざまです。

さらに慢性疲労で最もこわいのは、自覚のない疲労感による心身症や突然死です。心にムチ打ち体を酷使しているうちに疲労感そのものがわからなくなり、やがて体が悲鳴をあげて心身症による急性心筋梗塞や狭心症を引き起こしてしまいます。多くの病気は血液検査や尿検査で調べられますので、疲れが長引く場合、または健診で不整脈を指摘されたら、何かの原因が潜んでいると考えて早めに医療機関を受診しましょう。

慢性疲労にサヨナラする生活習慣とは

まず必要なのは質のよい睡眠

よい睡眠がとれると、大脳の生命中枢にある自律神経系やホルモン系、免疫系の機能も正常に整えられ、心身のバランスが安定した状態になります。不眠がちな人は、毎朝同じ時間に起きて日光を浴びると、規則的な入眠が得やすくなります。

疲れた内臓を休ませるのが第一

現在人の体の疲れがなかなかとれない大きな要因のひとつが「食べ過ぎ」です。高たんぱく・高脂肪の食事や朝食抜き・深夜の食事、ながら食い・早食い、インスタント食品の多用を控え、内臓に負担をかけない食生活を心がけましょう。

1日5分間、心と体のリセットタイムを

趣味やスポーツなど、熱中できるものがある人ほどストレスへの耐性も強く、健康管理も上手です。しかし、忙しくて時間をつくる余裕がないようなら、毎日5分間だけでも好きな音楽を聴いたり、ゆっくりお茶を飲むなど、心を解放する時間をつくりましょう。

運動で疲れにくい体づくり

長時間同じ姿勢を続けている人や運動不足の人は、全身の血流が悪くなりがちで、そのため筋肉に痛みを覚えたり集中力が途切れやすくなります。そんな疲労体質に陥らないよう、週2回以上は運動して疲労を解消することが大切です

慢性疲労とは別の病気「慢性疲労症候群(CFS)」

疲労感が蓄積しているものの日常生活を送るのに支障はない慢性疲労とは異なり、より重い症状が特徴の「慢性疲労症候群」の患者が近年増加しています。日常生活に影響をきたすほどの激しい疲労感や微熱、頭痛、筋肉痛、睡眠障害が6ヵ月以上続く病気で、詳しい発症要因はわかっておらず、明確な治療法もいまだ確立されていません。

全国の患者数は約24万~38万人とされていますが、はっきりとした診断基準がないため国も正確な患者数をつかんでいないのが実情です。しかし、先ごろ厚生労働省が患者約250人を対象に行った調査では、約3割がほぼ寝たきり状態の重症であることがわかっています。深刻な症状にもかかわらず、病名から「怠けているだけではないのか」といった誤解を受けることも少なくなく、周囲の正しい理解が求められています。

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滋養強壮に効くという栄養ドリンクやサプリメントを飲んで、その場を乗り切ろうとする人もいますが、体が求めているのは十分な休息です。疲労感という体からのメッセージに応え体調を整えることが、新年に向けてのいちばんの備えになるのではないでしょうか。

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<参考資料>
「慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査事業について」(平成26年度厚生労働省)
『疲れた心と体をリセット!「慢性疲労にさようなら」』(監修/岩崎靖雄・制作/社会保険研究所)
ほか
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原稿・社会保険研究所
※本稿は、ティーペック健康ニュース第279号(2015/12/10発行)より転載しております。
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※当記事は2015年12月時点で作成されたものを元に、データやイラストのみ一部修正したものです。
※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事が全てのケースにおいて当てはまるわけではありません。